第87話 聖剣の力
勇者がじっと俺を見つめる。
視線が足元から頭までを何度か往復した。
少し笑った勇者は、俺を指差して指摘する。
「今更なんだけど、とんでもない姿になっているね。魔族と見間違えそうになったよ」
「黙ってろ。こっちは必死なんだよ」
俺は勇者の言葉を聞き流して、眼前の城に意識を集中する。
漆黒の城は、絶望的な魔力を循環させながら堂々と君臨していた。
魔王は動かなかったのではない。
元から動けなかったのである。
さらに言うなら、動く必要もないのだろう。
(これが魔王なんて、馬鹿げていやがる)
一体どうやって倒せばいいというのだ。
そんな疑問を察したのか、勇者が現状を説明する。
「まずは門を突破しないと城内に入れないんだ。だけど、かなり頑丈になっていてね。ちょっと苦戦している状態だよ」
「出し惜しみせずに全力でいけよ。お前らなら破れるだろ」
「へぇ、信頼してくれるんだ」
「勘違いすんな。こっちの命が懸かってるんだ。温存とか余計なことを考えるなよ」
「うーん……確かに偽勇者さんの言う通りだねー。少し見込みが甘かったみたいだ。ここは一気に突破するのが優先かな」
思案した勇者は、元剣聖に何かを伝えた。
すぐに頷いた元剣聖が剣を構える。
あれは集合場所の遺跡で力を解放した聖剣だろうか。
迸る燐光が頭上まで伸び、雨のように降って勇者パーティを包み込む。
間近で見ていた俺は、顔を顰めながら尋ねた。
「とんでもない魔力……いや、聖属性か? 近くにいるだけで苦しくなるんだが」
「これが聖剣の真の力だよ。解放された聖剣は、絆で結ばれた者に聖なる力を付与できるんだ。これでパーティ全員の攻撃に聖属性が加わって魔王特効になる」
燐光を帯びる勇者は、確かに聖属性の力を持っているようだ。
他の連中もそうだった。
ただし、俺達のパーティに関しては何の変化もない。
「……こっちには聖なる力が宿ってねぇが」
「言ったでしょ。絆で結ばれた仲間だけが条件なんだ」
「そうかい。分かったぜ、クソッタレ」
俺は悪態を吐く。
まあ、どのみち聖属性を貰っても俺にとっては毒だ。
絆がなかったことを喜んでおくべきか。
その間に勇者パーティが動き出す。
彼らは閉ざされた門へと一斉攻撃を開始した。
「みんな、まずは門を切り開くよ!」
聖属性の一斉攻撃により、魔王城の門が歪んでいく。
徐々にだが着実に開かれようとしていた。




