第82話 突き進む覚悟
魔王はこの状況を静観していた。
ただ圧倒的な魔力を帯びてそこにいる。
勇者が攻め込んできたのに動かない。
一体、何をしているのか。
大量の配下を固めて待ち構えているのか。
下手に動くより、万全の布陣で迎撃するのが利口だと考えたのかもしれない。
俺は魔王の力を念入りに測る。
そして舌打ちした。
(とんでもない力だ。いくら勇者でも厳しいんじゃないか?)
そう思わされるほどの魔力量だ。
もはや魔物の延長線とも言えない規模である。
生物というより災害等の現象に近い。
噂では何度も聞いてきた魔王の逸話だが、こうして実物に近付いていくと、それらが矮小化されていたことを知る。
世界を滅ぼす存在というのは、まさに魔王のような化け物を指すのだった。
俺がこうして感知しているのだから、勇者パーティも気付いているはずだ。
しかし彼らは怯まずに突き進む。
無数の魔族を薙ぎ倒しながら距離を詰めていた。
恐怖はないのか。
いや、それを上回る決意と覚悟があるのだろう。
だから彼らは英雄をやっている。
そして、俺と共に進む仲間達も同様だった。
唯一、苦境を強いられるミィナは気合を入れ直していた。
治癒魔術の出力を上げることで、瘴気環境に上手く抵抗している。
その分だけ魔力消費が多くなるが、代わりに身体強化を解除し、持ち前の力だけを使うことで節約していた。
さらには持参の魔力回復薬を飲むことで持続させている。
ミィナの目は遥か前方を見据えていた。
彼女も魔王の存在を捉えている。
その上で絶望に屈せず、勇者達に遅れないように奮闘していた。
ウォルドはいつものように気の抜けた顔で、片手にはいつの間にか酒瓶を握っていた。
栓が外れて、中身が半分ほど無くなっている。
どさくさに紛れて、戦闘中に飲酒していたらしい。
とんでもない図太さである。
心地よさそうな顔を見ると、現状を理解しているのか問い詰めたくなるが、きっと本人なりに心身を調整しているのだろう。
その方法が酒というのが問題だが、ウォルドは激戦の中を無傷で進んでいる。
憑依状態の恩恵ありきだとしても十分すぎるほどに逞しい。
なんだかんだでやる男なのだ。
メニもやはりいつも通りの様子だった。
派手に力を行使しては、ウォルドの声援を受けて調子を上げている。
基本能力が俺達の中で最も高く、潤沢な魔力が得られる環境も相まって猛威を振るっていた。
勇者パーティと比べても遜色のない領域である。
心配すべき点などなく、このまま魔王への突破口を切り開いてくれそうだった。




