第8話 ニセ勇者は懇願される
街の外に繋がる門が見えてきた時、背後から控えめな声が発せられた。
「あの……」
俺とウォルドは同時に振り返る。
そこに立っていたのは、教会に置いてきた奴隷の一人だった。
治癒魔術で俺と馬の回復をした奴である。
その奴隷は二十歳くらいの獣人の女だった。
猫の耳と尻尾を持っており、今は緊張した様子で地面を見つめている。
たまに俺達の顔を確かめては、慌てて視線を逸らしていた。
煮え切らない態度を怪訝に思いつつ、俺は足を止めて話しかける。
「何だ。まだ用か」
言ってから勇者の演技を忘れていたことに気付く。
まあ、奴隷達の前ではずっと素の態度だったし、今になって豹変しても不自然だろう。
このまま貫こうと思う。
俺に問われた獣人女は、居心地が悪そうに言い淀む。
「えっと、その……」
「金が欲しいのか。これから大変だもんな。小銭でいいならやるよ。盗まれないように注意しときな」
言いにくさから目的を察した俺は、懐から出した貨幣を差し出した。
ところが獣人女は受け取ろうとしない。
額が少ないのだろうか。
意外と図太い性格をしている。
もう少しだけ増額しようとしたところ、横からウォルドが肘で突いてきた。
「どうやら金じゃないみたいだぜ」
「じゃあ何だよ」
「本人に訊いてみればいい」
そう促されて視線を戻す。
意を決したのか、獣人女は大声を出しながら頭を下げた。
「わたしを、勇者パーティに入れてくださいっ!」
周囲の人々が何事かと窺いながら通り過ぎていく。
物珍しそうにしつつも、彼らはこちらに触れようとしない。
当事者である俺は、口をあんぐりと開けて固まっていた。
「…………は?」
「くく、面白いことになってきたなぁ」
ウォルドは愉快そうに笑っていた。
彼は他人事のように背中を叩いて冷やかしてくる。
「ほら、答えてやれよ勇者サマ?」
「うるせぇな」
俺はウォルドを睨んで黙らせると、獣人女の顔を覗き込む。
そして率直に訊いた。
「一体どういう風の吹き回しだ」
「おとぎ話に出てくる"銀琴の聖女"みたいな英雄になって、勇者様の役に立って世界を救いたいです! 治癒魔術もいっぱい練習するのでお願いしますっ!」
獣人女の言う"銀琴の聖女"とは過去の英雄のことだ。
芝居なんかでも頻繁に登場しているので知名度は高い。
彼女はそんな人物に憧れているらしい。
きらきらと輝く瞳を見て、俺は苦い顔になった。
(まさかパーティに加入したい奴が出てくるとはな……)
正直、計算外だった。
確かにどこかで仲間が欲しいとは思っていた。
たった二人で勇者パーティを名乗るには不自然だと思ったからだ。
最低でも四人くらいは揃えるべきだろう。
しかし、仲間選びは慎重にしようと考えていた。
必然的に偽物ばかりの集団になるからだ。
万が一にも正体が露呈することは避けたい。
共犯者とも言える仲間は、状況が安定した頃に探すつもりだった。
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