第75話 本物の勇者
元賢者がやってきた二週間後。
最後の一人が来訪した。
すなわち本物の勇者である。
「やっほー、みんな久しぶりだねー」
軽い口調で挨拶をするのは、背の高い赤髪の女だ。
歳は二十代くらいで、平凡な布の衣服にブーツという格好である。
他に特筆することはない。
ごく普通の旅人の装いで、動きも自然体そのものだった。
魔力量は一般人より多い程度だろうか、
平均的な魔術師と並ぶくらいで、決して飛び抜けた力を持っているわけではない。
先に登場した面々は分かりやすい強さを持っていただけに、この勇者にはあまりにも特徴がなかった。
ただし、落胆するようなことはない。
むしろ俺は最大限の緊張を帯びていた。
(とてもそうは見えないが……間違いなく勇者だ)
女の纏う雰囲気は超然としていた。
彼女の持つ何かが英雄たらしめている。
しかしその正体が分からない。
素朴な風貌を意外に思うと同時に、勇者であることに納得していた。
勇者は武器や防具を所持していない。
代わりに腕輪や指輪や耳飾りを着けているので、そういった魔道具を多用する戦い方なのだろう。
全体的に身軽な装備である。
軽い言動も相まって無防備だが、不思議と殺せる気がしなかった。
特に威圧されているわけでもない。
隙だらけに見えて実際は一切の隙がないように感じるのだ。
なんとも奇妙な佇まいである。
勇者は仲間との挨拶を済ませると、まっすぐに俺のもとへと来た。
そして微笑を湛えて話しかけてくる。
「君が噂の偽物勇者だね」
「ああ、そうだ。お前が本物の勇者か」
「うん。本物って呼ばれ方は初めてだけどね」
勇者は気さくに応じる。
それから顔を近付けて、じろじろと俺のことを見つめてきた。
何かを判別した勇者は口元の笑みを深める。
「……ふむふむ。実力はイマイチっぽいけど、執念は一流ってところかな。傷だらけになっても諦めない根性は悪くないね。魔族を倒せたのも納得だ」
評価を聞いた俺はぎょっとする。
勇者の指摘がかなり的確だったからだ。
(こいつ、少し見ただけで俺の性格や戦い方を見抜いたのか?)
おそらくそうなのだろう。
相手の本質を捉えることに長けている。
勇者の力の一端を見せつけられた気がした。
畏怖とも感心とも言えない感情を覚えているうちに、勇者は俺から離れる。
彼女はミィナ達に声をかけた。
「そっちは聖女様と精霊憑きのお兄さんだね。面白い組み合わせだ」
「そりゃどうも。勇者パーティの皆さんもなかなか個性的なことで」
ウォルドが飄々と対応する。
特に緊張していない姿からは生来の図太さが窺えた。
相手がどんな人物だろうとウォルドは態度を変えない男なのだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺はウォルドと押し退けて、再び勇者の前に進み出る。
「単刀直入に訊くが、俺達をどうするつもりだ。偽物として始末するのか。それとも黙認するのか」
決定的な質問だった。
勇者の言葉一つですべてが変わる。
俺達の命にも関わってくるが、あえて尋ねた。
このまま曖昧にやり取りを続ける気はなかった。
(さあ、どう答える?)
俺は勇者の顔を凝視しながら待つ。
勇者はしばらく無言だった。
感情の読めない顔で空を見上げた後、彼女は俺達に向けて告げる。
「どっちでもないよ。君達には魔王討伐を手伝ってもらいたい。成功したら名実ともに本物の勇者になれるけど、よかったらどうかな?」




