第72話 聖女の覚悟
俺は暫しミィナの顔を見つめる。
迷いの感じられない晴れやかな顔だった。
そして強靭な意志を宿した双眸――これはもう折れそうになかった。
俺は深々とため息を洩らす。
それから髪を掻きながらぼやいた。
「変わり者だな。俺と一緒にいても偽物呼ばわりだぜ。犯罪者だと認定されてもおかしくない」
「構いません。ジタン様がわたしを救ってくれたことに変わりはないんですから。そもそもわたしは、ただの奴隷だった身分です。既に十分すぎるほどの幸福の味わっています。偽物扱いも堂々と受け止めるつもりです」
ミィナはしっかりとした口調で述べる。
その場の気分で言っているようには見えない。
本人なりに腹を決めているみたいだ。
俺よりよほど肝が据わっていると言えよう。
まさに聖女の名に相応しい姿である。
俺は煙草をくわえて呟いた。
「ったく、後悔すると思うがね」
「いいですよ。その時は一緒に運命を共にしましょう」
「へっ、縁起の悪いことを言うなよ」
俺は紫煙を吐いて笑う。
するとミィナは少し眉を寄せて注意してきた。
「煙草はお身体に毒ですよ」
「生憎と健康を気にする状態じゃないのさ。煙草より魔族の血肉の方が毒だろ」
「ふふ、それもそうですね」
ミィナは面白そうに笑う。
別に受けを狙った冗談ではないのだが、彼女の琴線に触れたらしい。
しばらく煙草を味わった後、俺は改めてミィナに問いかける。
「勇者どもを殺し合う覚悟はできているか?」
「……はい、大丈夫です。もちろんそうならないようにしたいですが」
「同感だ。さすがに勝ち目が薄すぎる」
「それでも退く気はないんですね」
「まあな。我ながら大馬鹿野郎なんだ。ここで逃げ出せば、二度と這い上がれない気がするのさ」
偽勇者は俺に許された最後の機会だ。
不名誉だし誇れることでもないが、それだけは間違いない。
この先に待っている展開は分からない。
だからこそ俺は力を尽くす。
とりあえず後悔しないことが先決だろう。
ミィナは拳を握って力強く宣言する。
「どんな結果であれ、お手伝いさせていただきますよ!」
「そいつはありがたい。最近は頻繁に大怪我をするから困っているんだ。また負傷した時は頼む」
「お任せてくださいっ」
話が盛り上がっているところにウォルドとメニが帰ってきた。
そこにカレンはいない。
拘束を解かれた彼女は、元剣聖のそばに立っていた。
俺はウォルドに尋ねる。
「どうなった」
「とりあえず元剣聖が納得してくれた。渋々だがな。他の勇者が集合してから、俺達の処遇を決めるそうだ。ここからは天に祈るしかないってことだな、うん」
腰に手を当てるウォルドは能天気に言うのだった。
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