第68話 勇者の在り方
カレンの言葉に俺は顔を顰める。
そしてすぐさま問い詰めた。
「おい。他の勇者ってどういうことだ」
「そのままの意味。勇者は複数いる」
彼女の発言は、世界の常識を覆すものだった。
こちらが動揺するのも無視して、カレンは詳細を語り始める。
「元々、勇者は一人だった。魔王討伐という目的を掲げて、少数の仲間を引き連れて旅をしていた」
「それが勇者パーティだろ」
誰もが知っていることだった。
勇者パーティは最強の少数精鋭である。
彼らは各地で人々を救い、同時に様々な伝説を残していた。
カレンは俺の指摘を流して話を続ける。
「しかし、一行は旅の中で暗殺や陰謀に巻き込まれるようになった。このままだと魔王軍との戦いどころではない。そう考えた勇者は、仲間にも勇者を名乗らせて別行動を取るようになった」
「なるほどな。勇者の情報やら居場所が不明瞭なのは、そういう仕組みだからか」
俺の反応に頷いたカレンはさらに事情を明かしていった。
曰く、勇者パーティは各々が勇者として活動しており、個別で実力向上を目指すのが基本方針らしい。
そうして魔王に挑む準備が整った段階で集結する手筈だというのだ。
勇者達は単独だったり雇っていたり、それぞれ行動形態は異なる。
誰がどこで何をするかも独断で決めているそうだ。
そして、パーティの連絡や中継、補助を担っているのがカレンである。
彼女が間に立って調整することで、勇者の正体は謎に包まれているのだった。
かなりの実力者なのは知っていたが、重要な役割を担っていたようだ。
先ほどから黙っていたウォルドが、俺の肩に腕を回してくる。
そして馴れ馴れしく小声で茶化してきた。
「おい、ジタン。良かったじゃねぇか、勇者パーティがお前と同じことをやっているぞ」
「許可の有無には大きな差がある。一緒にするな」
カレンがじろりと睨んでくる。
しっかりと聞こえていたらしい。
肩をすくめたウォルドは、潔く後ろに引いた。
咳払いをしたカレンは、焚火の前に座る勇者を指差す。
「あそこにいる彼も本当の勇者ではない。元は剣聖と呼ばれていた男だ」
「へぇ、あの雰囲気で本物じゃねぇのか」
俺は素直に感心する。
剣聖も有名な英雄の一人だ。
行方不明だと聞いていたが、まさか勇者になっていたとは。
過去の功績や身分を捨ててまで世界を救おうとするなんて大した根性である。
一方、終始困惑するミィナが遠慮がちに口を開いた。
「あの。一体どういうことですか? わたし、話に全然ついていけてなくて……」
「気にすんな。じきに嫌でも理解するさ」
俺は彼女の質問を流しつつ、視線を元剣聖の勇者に戻す。
奴もこちらをじっと凝視していた。
「さて、挨拶しに行くか」
俺は気楽な調子で前に進み出した。




