第63話 偽勇者の要求
そんなわけで現在の俺は包帯男だ。
あちこちの皮膚を失った化け物で、片腕に至っては魔族そのものであった。
まあ、それでも死なずに死んだのだから文句も言えまい。
この能力がなければとっくに死んでいた。
俺が一人で納得していると、拘束された女は不服そうに問う。
「なぜ拙を生かしている」
「そりゃ勇者パーティの人間を殺したとなると、大罪人になってちまうからなぁ」
「拙は表向きには存在しないことになっている。命を奪ったところで問題ない」
「勇者達が報復に来るだろ。そうなれば俺は破滅だ」
俺は真顔で断言した。
これは間違いないことだ。
さすがに避けたい事態である。
向こうは本物の英雄集団なのだ。
巨悪である魔王に立ち向かえる御伽噺の住人みたいな存在で、絶対に対立すべきではない。
名を勝手に騙っておきながらそう考えるのも矛盾しているかもしれないが、とにかく決定的な敵対行為は止めた方がいいだろう。
さっきまでは殺すつもりだったものの、ウォルドとメニに諭されて頭を冷やしたのだ。
俺は煙草をくわえながら女に告げる。
「まあ、ゆっくりしてくれ。時間はたっぷりとある」
「ふざけるな。拙から何か聞き出すつもりなら無駄なことだ。絶対に口は割らない」
「誤解するなよ。俺達は勇者と敵対したくない。面倒事に巻き込まれたくないから、余計な情報も知りたくないしな」
勇者を疎む派閥から暗殺されそうになったばかりなのだ。
あまり深く首を突っ込むと碌なことにならない。
とは言え、俺達は悪目立ちしすぎた。
何も知らないままだと却って危険かもしれないので、なんとも難しいところである。
その上で現状の方針は決まっていた。
俺は女を見下ろして堂々と告げる。
「偽物は無害だったと勇者パーティに報告しろ。そして二度と関わってくるな。それだけが要求だ」
「何だと」
「もう厄介事は嫌なんだ。ただ勇者の立場を利用して贅沢な暮らしをしたいだけだった。ところが命を狙われてばかりで、まったく得ができない。別に本物に嫌がらせをしたいわけじゃないんだ。ただほっといてくれ」
俺は今までの愚痴を垂れ流す。
どれも紛うことなき本音であった。
女は嫌そうな顔をして舌打ちする。
「そんな主張を聞くと思うか」
「あんたが決めることじゃねぇだろ。俺は勇者に要求している。まずは報告しろ。それができないのなら殺す」
俺は女の首筋に短剣を押し当てながら宣言する。
少し力を強めると、ほんの僅かながら血が滲んできた。
女も気付いているだろう。
静寂の仲、暫し睨み合いが続く。
長い沈黙を経て、彼女は答えを述べた。
「勇者パーティへの報告は承諾した。ただしお前達も連れて行く。本物と偽物で顔を合わせて話し合う。それが最も手っ取り早い解決方法だろう」




