第6話 ニセ勇者と奴隷達
現在、俺達は馬車に乗って移動中だ。
横転の衝撃で馬が負傷していたが、奴隷の中に治癒魔術を使える奴がいたので助かった。
おかげで歩く必要がなくなり、こうして馬車で優雅に進んでいる。
治癒魔術の評価は高く、そういった能力を持つ奴隷は高値で売れる。
奴隷商はさぞ期待していたに違いない。
売り払う前に死んだのは不幸だったと思う。
(まあ、犯罪に手を染めたんだ。いつでも死ぬ覚悟はできてたろ)
俺は御者の席で煙草を吸う。
夜空を眺めながら紫煙を味わった。
冷えた空気が肌を撫でていく。
隣ではウォルドが馬車を操っていた。
その恰好は裏街を出た頃より立派になっている。
仕立ての良い高級服だ。
奴隷商の換えの服が馬車内に入っていたのでそれを拝借したのである。
俺が勇者を自称する以上、同行するウォルドも相応の装いをしてもらわねばならない。
今の状態なら悪人面の豪商といったところか。
及第点には達しているだろう。
細かい部分は街や村で整えればいい。
奴隷商と傭兵の遺品を丸ごと奪ったので、それらを売れば資金になる。
しばらくは貧乏生活をせずに済むだろう。
手綱を握るウォルドが、ちらりと俺を見た。
「調子はどうだ?」
「上々だ。女だってもう抱ける」
俺は軽く笑いながら紫煙を吐く。
傭兵との戦いで受けた怪我は治療済みだ。
馬と同様、奴隷の治癒魔術で傷を塞がせた。
致命傷と言えるほどの傷はなく、生死を彷徨うようなことはなかった。
ただし失った血液はそのままなので、貧血の症状が出ている。
こればかりは仕方ない。
食事と睡眠で回復するのが一番だろう。
我慢できるほどなので、さほど気にすることではない。
馬車には長距離移動のための保存食がある。
奴隷達に配ってもまだ余っていたから、後で食おうと思う。
味は褒めたものではないが、別に構わない。
裏街を生き抜いた俺にとって、食事の味など些末な要素だった。
栄養になるなら何でも食う所存である。
俺は足を組み直して後ろにもたれる。
血で汚れた衣服を見て、小さく嘆息を洩らした。
(いきなり勇者っぽいことをしちまったなぁ……)
短くなった煙草をくわえてふと考える。
後ろの荷台には十二人の奴隷がいた。
義理もないのに救ってしまった命である。
移動を再開する前に軽く説明したところ、奴らは俺を勇者だと信じている。
もしかすると疑っている者もいるかもしれないが、ひとまず大人しくしていた。
もっと勇者として振る舞うべきだろうが、疲れたので放棄している。
それらしい演技をするのは明日からでいいだろう。
今日は取り繕うだけの余裕もない。
悪党をぶっ殺して、奴隷達を救うことができた。
それでいいだろう。
己の功績を噛み締めながら、俺は煙草を投げ捨てた。




