第59話 魔族化
俺は床を蹴って跳びかかる。
もちろん攻撃に使うのは爪だ。
こいつが最も威力が高い。
身構えた女はナイフで防御した。
爪と刃が衝突して火花が散る。
押し返されそうになるも、その場で踏ん張って堪える。
爪が軋むも折れはしない。
その頑丈さに感心しつつ、俺は回し蹴りを見舞う。
女は跳んで躱し、もう一方の手にナイフを振りかぶった。
一体どこから取り出したのか。
まったく分からなかった。
驚きもそこそこに、俺は咄嗟に屈む。
肩と鎖骨にかけて痛みが走った。
回避し損ねて刃が掠めていったらしい。
俺は追撃を嫌って爪を振るう。
女はナイフで防ぎながら後方へと退く。
壁に張り付いてから床に着地してみせた。
その時、女がナイフを取り落した。
「……っく」
前腕に深い裂傷が刻まれている。
大量の血が流れ出していた。
必死でよく分からなかったが、爪が当たったのだろう。
女は一定の距離から動かず、前腕に布を巻き付けて止血する。
その間も俺の動きを警戒していた。
落としたナイフは拾おうとしない。
(――この力ならいけるぞ)
俺は錬金術で魔族の力を解放した。
都合よく使えるようになるかは賭けだったが、なんとか打ち勝ったのである。
欠損した腕も強くなって復活した。
見た目は魔族そのものだが、この際、贅沢は言えないだろう。
切り付けられた肩と鎖骨は血が止まっている。
ただ、少し違和感がある。
触れてみると肉が盛り上がって質感が変わっていた。
鏡がないので目で見て確認できないが、ちょうど爪を持つ魔族の腕と同じ具合だった。
(まさか傷を負った部位から魔族に近付いているのか?)
副作用としては相応だ。
まあ、今は好都合とも言える。
脆い人間の肉体から強くなれるのだから。
生き延びれるのなら、醜い姿も許容しよう。
そう決めた俺は攻撃を仕掛ける。
女は落としていたナイフを蹴り飛ばした。
高速回転する刃を見て、俺は人間の手で遮る。
ナイフは手の甲に弾かれた。
鋭い痛みは、刃に切り裂かれたせいだろう。
ほとんど出血しないまま、手の甲が変色し始める。
黒煙の魔力を滲ませて、傷を塞ぐ肌が魔族のそれになった。
俺の予想は的中した。
傷付くと魔族になるようだ。
女は残る一本のナイフを構えながら睨んでくる。
「化け物め」
「ハッ、言ってろよ」
俺は罵倒を嘲りながら魔族の腕を振り下ろす。
その一撃は寸前で女に避けられたが、牢獄の壁を粉砕した。
さらに衝撃波で女を吹き飛ばすことに成功した。




