第48話 底辺の執念
肘打ちを食らった優男が吹っ飛ぶ。
その身体が地面を転がるも、素早く立ち上がってみせる。
奴は鼻血を腕で拭うと、なぜか俺の足下を指差した。
「……落としたぞ」
俺はそれに従って視線を下ろす。
握っていたはずの短剣が雪に刺さっていた。
そして、切断された指が転がっている。
俺は自分の手を見る。
人差し指と薬指が根元から欠損し、小指も半分くらいの長さになっていた。
痺れるような痛みが神経を刺激する。
「あの野郎……」
優男は肘打ちを受けながら反撃してきたのだ。
むしろこれが狙いだったのだろう。
俺の指を斬るために、わざと攻撃を食らったに違いない。
指の断面から血が噴き出すが、すぐに凍りついて止まる。
吹雪の強さに加えて、心臓に馴染む精霊の力が作用したのだろう。
肉体を死から遠ざけるように機能したのだと思う。
俺の生き汚さが反映されていた。
「ちくしょう、繋げたばかりだってのに……」
俺は転がる指を睨んで愚痴る。
魔族戦でも欠損して、今回もまた切り飛ばされた。
文句を垂れるのも当然だろう。
もう短剣は握れないので、残る指に力を入れて握り締める。
問題ない。
これで野郎を殴ってやれる。
「うおおおおおあああああァッ!」
俺は叫びながら突進する。
優男の振り下ろす片手剣が肩に炸裂した。
しかし、そこは魔族部位だ。
刃が食い込むも、切り裂かれることはない。
「死に晒せェッ」
優男に組み付いた俺は、押し倒して馬乗りになる。
親指を優男の片目に突っ込むと、指を曲げて眼球をくり抜いた。
優男は絶叫する。
「ぎあああああぁぁっ!?」
その直後、片手剣が俺の腹に突き刺さった。
ちょうど生身の部分だったので、当然のように貫通する。
吐血した俺は、それでも不敵な笑みを浮かべた。
即死さえ免れればいい。
後でいくらでも治癒できるのだ。
今は殺すことだけに集中すればいい。
眼球を捨てた俺は、もう一方の目も同じ要領で抉り取る。
「ぬぐあぁっ」
優男が堪らず暴れた。
片手剣を振り回そうとするので、俺は飛び退いて距離を取る。
優男は両目から血を流して立ち上がった。
そして地団太を踏む。
「くそ、くそ、くそ! 目を潰しやがった! 出てこい! 殺してやるっ!」
優男は怒鳴りながら片手剣を振り回す。
メニの起こす吹雪の中では、魔力感知も満足にできない。
視覚を失ったのは致命的だ。
とは言え、迂闊に近付けば斬られそうなので、俺はひっそりと観察する。
ついでに周囲を確認した。
優男に加勢しそうな者はいない。
使者の一団の生き残りは連携を取れていなかった。
不利を悟って逃亡するか、目立つ戦い方のミィナに殺到している。
優男を助けようとする者は皆無だ。
大半が雇われの傭兵なので、忠誠心がないのは当然だろう。
(お前は終わりだ。嬲り殺してやるよ)
俺はほくそ笑みながら欠損した指に注目する。
凍り付いた血が蠢いて、鋭利な赤い刃に変形した。
これは錬金術だ。
主な用途は道具作成だが、応用すれば即席の武器を拵えることも可能なのである。
俺は赤い刃が生えた手を優男に向ける。
切っ先を揃えて、よく狙いを定めた。
欠損した指の断面に魔力を集めて、瞬時に解き放つ。
刹那、赤い刃が一斉に射出された。
そのうち二本が優男の首と側頭部に命中した。




