第41話 聖女の英断
俺の出任せを聞いたミィナは暫し考え込む。
やがて彼女は決意に満ちた顔を上げた。
「分かりました!」
「理解してくれたか。だからすぐに脱出を――」
「ひどい貴族は放っておけません。わたし達で退治しましょうっ!」
「…………は?」
俺は思考停止する。
その間にミィナは扉を開けると、勢いよく部屋を出て行った。
「わたしが前衛を務めます! 一気に攻めて倒しますよ!」
そのままミィナの声が遠ざかっていく。
彼女は使者のもとへ向かっている。
俺の言葉を信じて悪徳貴族を思い込み、攻撃を仕掛けようとしているのだ。
取り残された俺達はそれぞれの反応を取る。
「は、ははは……やっぱりミィナちゃんは本物だな。まさかこうなるとは思わなかった」
「俺もだ。いくらなんでも脳筋すぎるだろうがよ」
「仕方ない。あの娘は熱血系だから」
頭痛がしそうな事態だが、生憎と何らかの行動が必要だった。
このまま呆けている場合ではない。
ウォルドが身支度をしながら俺に問いかける。
「さて、おいら達はどうする?」
「決まっている。ミィナを追いかけるぞ。俺達の嘘が露呈すると困る」
すぐさま俺達三人は外に飛び出す。
関所の前では、ミィナは使者の一団と対峙していた。
向こうの数はおよそ五十人。
正規の兵士だけでなく、傭兵らしき姿も少なくない。
(この雰囲気は……)
なんとなく嫌な予感がする。
使者の一団から悪意を感じる。
今はひた隠しにしているが、これはあまり関わるべきではなさそうだ。
違和感や杞憂では片付かないようなものを連中は抱えている。
相手の迫力にも気圧されず、ミィナは声を張って糾弾していた。
「あなた達は勇者の敵です! 隠し事はすべて知っていますよ。ここで洗いざらい喋ってくださいッ!」
「困りましたね……我々は何も隠していないのですが」
「嘘は通用しません! あなた方の陰謀は勇者様にお見通しです!」
使者の代表らしき優男が返答するも、ミィナはまったく動じない。
そのやり取りを見たウォルドが苦笑する。
「何をしてんだか……」
「ミィナをとっ捕まえたら今度こそ逃げるぞ。議論の余地はない」
俺は密かに身体強化を発動しながらウォルドに耳打ちする。
その時、代表の優男の気配が明確に切り替わった。
彼は憎々しげに舌打ちすると、じろりとミィナを睨み付ける。
「参りました。まさか計画が知られていたとは……なぜ分かったのです?」
使者の一団全体が険悪な空気に包まれていた。
表向きは隠していた本音を晒け出しているのだ。
それは俺が真っ先に感じた悪意だった。
異変を察したウォルドが大げさに嘆息する。
「おいおい、きな臭くなってきたな」
「ミィナの思い込みが的中したらしい。やったぞ、俺達が咎められることはなさそうだ」
「代わりに妙な陰謀に巻き込まれそうだけどな」
ウォルドはやれやれとでも言いたげに肩をすくめた。




