第37話 聖女の帰還
翌朝。
関所の周辺で走り込みをしていると、こちらに駆けてくる人影があった。
見ればそれはミィナだった。
彼女は目に涙を滲ませながら抱き付いてくる。
「ジタン様、意識が戻られたのですねっ!」
よほど感動しているのか、抱き付く腕に力が込められていた。
回復したばかりの肉体が悲鳴を上げている。
俺はやんわりと抵抗して拘束から逃れると、ミィナの頭に手を置いた。
「心配かけたな」
「とんでもないです! お元気そうでよかったです……!」
ミィナは本当に嬉しそうだ。
結果として大事になったが、彼女なりに考えて魔族殺しの功を言い広めたのである。
それが人々の希望になると同時に、俺達にも返ってくると判断したのだろう。
ミィナは俺が眠っていた間の出来事を興奮気味に語る。
俺はその姿を観察する。
途中で彼女の態度や表情、仕草といったものの変化に気付いた。
(雰囲気が変わった気がするな……吟遊詩人の真似事をしたせいか?)
端的に述べると、かなり堂々としている。
話しぶりも上手くなっている気がした。
ミィナは聖女として求められて、それに則した活動をしてきた。
その影響で素の言動も変わり始めているのかもしれない。
これは悪いことではない。
元は自信なさげな奴隷であり、成功体験の積み重ねで良くなってきた証拠だ。
ミィナの話を聞いているうちに、彼女の来た方角から物々しい集団が近付いてくる。
大半が屈強な男だ。
完全武装した彼らはまるで戦前のような空気を醸し出している。
さすがに無視するわけにもいかず、俺はミィナに尋ねる。
「あの連中は誰だ」
「彼らはわたしの護衛に立候補してくれた方々です。邪魔になるだろうとのことで旅には同行せず、新たに勇者パーティの支援団体を立ち上げてくれることになりました」
ミィナはさらりと説明する。
俺は内心を顔に出さないようにするので必死だった。
(とんでもない事態になりやがったな……)
偽物としてこっそり活動するくらいがちょうどよかったのだ。
ミィナが近隣を回って武功を言い広めているのはウォルドから聞いていたが、まさか支援団体まで出てきたとは。
さすがにそこまでは予想していなかった。
それでも本音を口にするわけにはいかない。
なるべく自然な笑みを意識しながら、俺はミィナのことを称賛する。
「よくやった。これで、色々と不便が解消されそうだ」
「お役に立てて光栄です」
ミィナは無邪気に微笑んでみせた。




