第33話 目覚め
体表を虫が這うように苦痛が疼く。
耐え切れず目を開いた。
見知らぬ石の天井が見える。
俺はどうやら横になっているらしい。
背中に硬いベッドの感触がある。
喉を動かすと掠れた声が出た。
「う、ぁ……」
か細くて情けなくなる。
それでも声は出せた。
しばらく呆けていた俺は、直前の記憶を呼び起こす。
確か氷の精霊メニと共に魔族と戦ったはずだ。
そして血みどろの死闘を繰り広げた。
最終的に俺は捨て身で爆弾を使い、そこから記憶が途切れている。
(この感じだと、生き延びたようだな)
さすがに死も覚悟したわけだが、なんとか杞憂で終わったらしい。
首を回して周囲を確かめようとした時、すぐの気配に気付く。
能天気な顔で見下ろしてくるのはウォルドだった。
「よう。目覚めたのか。つくづく悪運が強い奴だな」
「……うるせぇな」
俺は悪態を吐きながら上体を起こす。
骨と筋肉が軋んで痛むも、辛うじて動かすことができた。
装備類は外されて包帯が巻き付けられている。
義手の部分には何もなく、隻腕状態となっていた。
きっと爆弾の衝撃でぶっ壊れたのだろう。
俺はゆっくりと辺りを見回す。
石造りの殺風景な部屋だ。
目に付くような特徴がなく、ただの休憩室といった感じである。
「ここ、は?」
「関所だ。ミィナがお前を運んできたんだ。後で礼を言っとけよ」
ウォルドが俺の肩を叩く。
それだけで身体がひどく痛んだ。
俺が顔を顰めて睨むと、ウォルドは目を逸らして口笛を吹く。
「魔族は死んだ。お前の爆弾でな。派手にぶっ飛んでたぜ」
「そいつは……見たかった」
「安心したか?」
「まあな」
そこが一番気になっていたのだ。
未だに信じられないが、殺すことができたらしい。
自覚すると鼓動が大きくなってくる。
「これでお前は魔族殺しだ。偽物勇者の割にはよくやってるじゃないか」
「もう、懲り懲りだがな……」
「そう言うなって。まだまだ活躍していこうぜ?」
「勘弁してくれ」
なぜか乗り気なウォルドを見て、俺は深々とため息を洩らす。
今回も死にかけたのだ。
やはり勇者の名を騙ると碌なことがない。
結果的に勝てたとはいえ、運が良かった面が大きいだろう。
相手は擬人化できる魔族だったのだ。
同じ戦いを百回繰り返せば、九十五回は負けたと思う。
入念な対策を用意していたものの、それすら暴力で覆せるような相手だった。
しかし、俺は魔族を殺して生き残ることができた。
それについては誇ってもいいだろう。




