第30話 殺害の執念
それは一瞬の猛攻だった。
ウォルドに憑くメニは、ぴたりと数百発の超高速殴打を止める。
真正面から浴びた魔族は穴だらけだった。
各所からどろりと血を流しながら、ゆっくりと後ろへ傾いていく。
そのまま地面に倒れるかと思いきや、寸前で足が動いた。
魔族は素早く後ずさり、血反吐を垂らしながら前傾姿勢となる。
さらに割れた爪を光らせて構えを固めた。
ぎらついた双眸は、まだ勝利を諦めていない。
度重なる猛打で顔面は腫れ上がって原形を失っているというのに、貪欲な殺意を枯らすことなく放射していた。
「はは、大した根性だ……」
俺は思わず乾いた笑いを洩らす。
そして軋む身体を前に進めた。
左右に揺れながら少しずつ魔族に近付いていく。
ウォルドとメニの様子を横目で確認する。
二人は激しく疲弊していた。
圧倒的な力で魔族を瀕死に追い込んだが、その反動は大きかったのだろう。
おそらく本人達の予想を超えた消耗だったのだと思う。
放っておいても死ぬことはないものの、彼らが追撃のために動くのは難しそうだった。
次にミィナを見る。
彼女は得意の機動力を駆使して、いち早く魔族に突貫した。
余力の差からミィナが押し切るかと思いきや、魔族は脅威的な執念で対抗する。
ついには穴だらけの身体でミィナを投げ飛ばした。
ミィナは何度も地面を跳ねた末、太い樹木に激突した。
起き上がろうとするも、咳き込んで吐血してしまう。
全身を包む治癒魔術の光が不安定に明滅していた。
ついに魔力の限界が訪れたのだ。
たぶんずっと前の段階から限界が近かったが、それを気合で維持していたのだろう。
治癒魔術が切れれば、ずば抜けた身体能力は使えなくなる。
何より傷の手当ができない。
そんな状態のミィナにとどめを任せるのは不確実だ。
(……まあ、俺がやるしかねぇな)
なんとなく察していた。
だから別に感情が動くことはない。
粛々と受け入れて覚悟を原動力に変える。
歩きながら手持ちの武器を確認する。
聖水漬けの武器はまだ残っていた。
爆弾等の魔道具にも余裕がある。
肉体は満身創痍だが些細なことだ。
俺は懐から追加の丸薬を取り出して、躊躇いなく口に放り込んで飲み込む。
――心臓が、大きく収縮した。
出血が悪化する感覚を味わいながら、俺は魔族の殺害だけに意識を絞っていく。




