第13話 越境の道
それから数日をかけて馬車は移動する。
暫定的な目的地は氷国と呼ばれる極寒地域だ。
現在地の王国を西に進んだ位置にある。
氷国という名称だが、厳密には国ではない。
吹雪に晒される大地は氷の精霊の所有物であり、人間の王は存在しなかった。
領内では少数の民が各地に集落を設けて、身を寄せ合って生活している。
具体的にどういった生活様式なのかは知らないが、過酷であるのは間違いないだろう。
そんな場所にわざわざ俺達が向かう理由は二つ。
一つ目は、ミィナを含めた勇者パーティの演技を完璧にするため。
二つ目は、外界からほぼ遮断された住民から、勇者としての恩恵をいただくためだ。
前者は言うまでもない。
人目につかない場所で騙りを上達させておきたい。
相当な辺境なので、本物の勇者パーティに出くわしづらいのも利点だろう。
吹雪のおかげで盗み聞きされる心配もない。
後者はある意味で本命だった。
氷国では豪勢なもてなしなど期待できないが、それでも歓迎されるはずだ。
話術次第で高価な物品を譲ってもらえるかもしれない。
この地域でしか手に入らない貴重な物が手に入れば大勝利である。
その時はさっさと別の国へ赴いて、戦利品を高額で売り払うと思う。
ずっと乗ってきた馬車が国境付近で停まる。
ここが終点なのだ。
さすがの馬車も氷国まで進んでくれるわけではない。
降りた俺達は徒歩で移動を再開する。
前方には石造りの頑丈そうな砦がそびえ立っていた。
俺はミィナに警告する。
「あれが国境の関所だ。余計なことは喋るなよ」
「分かりました!」
ミィナは元気よく返事をする。
果たして本当に分かっているのかどうか。
生憎と確認する術はない。
関所が近付く中、ウォルドが早口の小声で俺に訊く。
「素性はどうする」
「流れの冒険者でいいだろ。怪しまれなきゃそれでいい」
兵士を相手に勇者パーティを騙ったところで意味がない。
少し憧れの感情を抱かれるくらいだろう。
そんな反応をされたところで興味がなかった。
尊敬の念は金にはならないのだ。
憧れるくらいなら無言で金を投げ付けてほしいのが本音である。
ほどなくして関所の前に到着した。
兵士の一人が話しかけてくる。
「お前達は何者だ。何の用で氷国へ?」
「俺達は――」
「勇者パーティとして迷宮探索に向かいますっ!」
ミィナが威勢よく言い放った。
屈託のない笑顔を見て俺は目を見開く。
「おい馬鹿……ッ!」
「やめろ。もう手遅れだ」
ウォルドがさりげなく俺を引き止める。
そこで冷静さを取り戻した。
こいつ、言いやがった。
無駄である騙りを平然と実行したのだ。
心境は分かる。
ミィナは俺達が偽物であるとは知らない。
勇者パーティに加入したものだと思っている。
だからこそ誇らしく感じて、兵士の応答を担ったのだろう。
兵士は感心したような顔でミィナに念押しする。
「お嬢ちゃん。勇者パーティってあの勇者パーティか?」
「はい。その勇者パーティです」
ミィナは頷いて答える。
実際は真っ赤な嘘だが訂正してやるほど律儀ではない。
兵士は半信半疑といった調子だったが、こちらが黙っているのを見て興奮し始める。
そうして兜を脱いでおずおずと一礼をした。
「どうもどうも。すごいな、噂は聞いていたが実物は初めて見た。とても強そうだ」
「そいつは嬉しい意見だ」
俺は皮肉を交えて答える。
しかし騎士は気付かずに近寄ってきた。
既に槍を下ろして親しそうにしている始末だった。
兵士は俺達を見て告げる。
「いやぁ、それにしてもちょうどよかった。勇者様にしか頼めないことがあるんだ。どうか話を聞いてくれないか」
「……ああ、そうだな…」
嫌な予感を覚えて、俺はぎこちない笑みで頷いた。
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