第12話 乏しい才能を愛でて毟る
その後、俺達は乗合馬車に乗った。
他に乗客がいない中で移動が始まる。
ミィナは窓から外を眺めて感動していた。
「わぁ、良い景色ですね! 馬車の乗り心地も最高ですっ」
別に珍しいものでもないというのに、大げさな反応である。
まあ、彼女にとって自由とはそれだけ喜ばしいのだろう。
はしゃぐ横顔は幸せに満ち溢れていいる。
一方で俺とウォルドの雰囲気は暗い。
馬車の空気の二極化が深刻だった。
少し非難めいた目をしたウォルドが俺に話しかけてくる。
「どうするんだ。いつの間にか秘境の迷宮に挑むことになってるぞ。この娘の解釈はどうなってるんだ」
「知るか。俺だって想定外だ」
ミィナの勘違いは斜め上だった。
気分が昂ると周りの声が聞こえなくなるらしく、さらには自分の妄想で話を補ってしまう。
騙すには好都合な面があるものの、それ以上に厄介かもしれない。
現在、ミィナの中では秘境の迷宮に向かう流れになっている。
ただ国外に行くと伝えただけでこの有様だ。
吟遊詩人の方がまだ常識的に誇張するのではないかと思う。
「まあ、旅をしているうちに誤魔化せるだろ。適当に楽しませてやれば、迷宮のことなんて忘れるに違いない」
「そうだといいがなぁ……」
「不安がるなよ。俺達ならやれるさ」
俺はウォルドに言い聞かせながら、手元の作業を進める。
持参した材料を組み合わせて、木製の筒を作っていた。
時折、工具で解体と組み直しを挟んで調節する。
それを眺めていたウォルドが話しかけてきた。
「何してるんだ?」
「爆弾を作っている。いくらあっても困らないからな。面倒な敵はこいつで吹き飛ばす」
「危ねぇ奴だ。頼むから巻き込まないでくれよ」
ウォルドが露骨に距離を取る。
仮に誤爆したら、この馬車が丸ごと消し飛んでもお釣りが来る。
だから無駄な抵抗だった。
作業を観察するウォルドは、感心と呆れを滲ませて述べる。
「小器用だとは思っていたが、ここまで来ると偏執的だな。勇者より暗殺者とかの方が向いてるぜ? お前ほどの技能持ちなら、どこの国でも欲しがるだろ」
「暗殺者なんて捨て駒にされる未来しかない。いくら金を積まれたって俺は断るさ」
「もったいねぇな。お前にはたくさんの才能があるってのに」
「才能じゃない。努力の成果だ。才能があれば器用貧乏にはなっていないだろう」
俺が反論すると、ウォルドは片眉を上げた。
そして皮肉を込めた口調で言う。
「行き着いた先が元盗賊の偽勇者か。上等じゃないか」
「お前もだよ、偽賢者サマ」
俺はウォルドの肩を小突いた。




