愕愕震震の二
「誠に申し訳ございませんでした!!どうか、どうかお命だけは・・・!?」
死神を目前にした死刑囚のような表情を浮かべたアイギスとそんなアイギスにまったく興味がない様子で私の手を舐めるバロンを見比べる。
バロンが私の腕の中から動かずにいてくれるのはたけしも吃驚なバイブレーションを披露していた私を気遣ってのことだろう。
ありがとう、バロン。少しは落ち着いたよ。でも、私の十分の一でもいいからアイギスのことも気にしてあげて。
「あの、バロン。アイギスは操られていたわけだし・・・・・」
無言で下から黄金の瞳に見つめられる。ここでどもっては駄目だ。ちゃんとバロンを説得しないと。
「あの、あの・・・アイギスの意思ではなかったということで・・・・・・」
アイギスから縋るような眼差しが突き刺さる。うん、うん。私頑張るよ。頑張ってアイギスの生存権を死守するから。
「・・・・・・許してあげて欲しい・・・です」
『・・・・・・・』
ダメージが無に等しかったとは言え、蹴られたバロンとしてはやり返したいという気持ちも分かるよ?
分かるけれども、バロンが蹴った場合、アイギスが無事では済まないと言う問題がありましてだな。どうか寛大な心で慈悲をください、お願いします。
『・・・・まぁ、脆くとも盾はあった方が良いか』
アイギスが上目遣いでバロンの様子を窺う。横目で睥睨するバロンと目が合いかわいそうなほど動揺して再度頭を床に擦りつけた。
『・・・今は、まだ、生かしておいてやろう』
「あ、ありがとう、バロン!良かったね、アイギス!」
アイギスの生存戦略に成功し、ほっと安堵の息をもらす。
先程視線が合ったことが余程怖かったのか、アイギスは土下座の姿勢のまま動かないが、下手に刺激するのも危険なのでそっとしておくことにした。
「・・・・・」
安心したところでログアウトを、したくない。
今日は夜寝る前にゲームしてから寝ようと自室の寝台の上でこの世界へログインしている。
ログアウトしたら、自分以外誰もいない部屋にて一人で寝なくてはならない。恐怖体験の記憶が生々しい現在、一人になんてなりたくない。
そうだ、西の大国で買ったブラシをまだ試していなかったんだ。ブラッシングしよう。もふもふに癒されよう。もふもふで思考を埋め尽くして先の体験を忘れよう。
「ねぇねぇ、バロン~。梳いても良~い?梳いても良いよね?」
ポーチの中からバロン専用の青いブラシを取り出し、バロンに迫る。バロンは特に何も言わずにブラシを瞥見して伏せの体勢で落ち着いている。
何も言わないということは許可をくれたと言うことだろうと勝手に判断してブラシを構える。
見た感じバロンの美しい毛並みに毛玉は存在しないようだ。
バロンが肩や腕の中でくつろいでいる時にバレないように撫でまわした際にも毛玉らしきものはなかったし、毛が絡まった様子もなかった。
このままブラシで梳いても問題ないだろう。初めてなので、まずは嫌がられることの少ない頬のあたりを狙おうか。
耳の下とかブラシで擦られると気持ちよさそうにする子が多いんだよね。ふふっ、ここか、ここがええのんか。
ひゃっは~!顎の下と胸毛も梳いてやるぜ~!気持ちええやろ、なぁ?澄ました顔をしても無駄だぜ、ゴロゴロ音が聞こえてきてるぜぇ。
お次は背中だ~!首元から尻尾の先まで流すように一息で梳いてやるぜ。ふっ、気持ち良かろう。長年、猫を飼い続け、毎日猫を梳いて鍛えたこのテクニック!とくと味わうが良い!
よっしゃー!最後はお腹だー!お腹は優しく丁寧に。猫のお腹には雄でも雌でも乳首が八つほど存在する。
ブラシで突起を引っ搔くと猫が痛がるので当たらないように注意しながら、ゆっくり優しく梳いてやるぜ!
「!」
お腹を梳くついでに、こっそり柔らかな毛を堪能してやろうとした所で、バロンの尻尾が寝台を打ちつけた。
依然として気持ちよさそうな喉が鳴る音は聞こえてくるが、耳が若干下向きにたたまれ、尻尾が小刻みに揺れ始めている。
や・め・ろの合図だ。これを無視して梳き続けると猫に怒られる。愛撫誘発性攻撃というらしいが、やめ時を間違えると猫に攻撃されて怪我をする。
バロンの攻撃とか生き残れる気がしないのでこうしたサインを見逃さないように注意しなければ。
バロンから手を離し、ブラシもポーチの中にしまう。
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ちなみに東は現在、ベリーハードモードもしくは鬼畜モードに設定されております。