粘性生物な袋
これはポーチの方を樽に近づけて収容するしかないだろう。ポーチの口の近くに樽がくれば中に入れることもできるはずだ。
霜蛇のポーチの口を開いたまま、樽に近づく、いや、抱き着く?お腹でタックルする?
とにかく、ポーチの口が樽と接触するような体勢を取る。木製の樽はポーチの口と接触した途端にぐにゃりと輪郭を崩し、ポーチの中へ吸い込まれていった。
「おお!本当に入った!?・・・・・入れる様子はちぃと不格好だが、機能はすごいな!」
おじさんは手品を見た子供のように感心して褒めてくれる。入れる様子が格好悪いのは樽が持ち上がらないのがいけないと思います。
それにしても、今まで気にしたことがなかったが、ポーチの生態、違う、性能も謎である。
入口よりも大きなものでも収納可能だし、入れる際の見た目が若干奇抜というか、ちょっと気持ち悪いのも何故だか分からない。
今回大きいものを納めたことで気持ち悪さが明確になってしまった。
輪郭を失った樽が不定形の粘性生物のような触手によってポーチの中に引きずり込まれていくというか、飲み込まれていくというか、とにかく樽の色も合わさって凄く不快な気分になる外観を呈していた。
冒険者ギルドの例のアレと言い、運営はもう少し見た目を意識したエフェクトを使ってほしい。私の心臓のためにも。
「醸ジュース1樽の値段は樽の費用込みだとこんくらいだな」
おじさんの提示する料金は、1樽の容量が大体容器六百杯分らしいので、樽込みだとしても個別に買うよりは安いように感じられる。
「とりあえず、1樽ください。・・・あの、また買いに来てもいいですか?」
バロンご所望の葡萄酒の捜索に時間がかかった時には、また醸ジュースが欲しくなるかもしれない。
今は1樽あれば十分なように思うが後々欲しくなった時に、また買いに来ても良いかおじさんに尋ねる。
「おう!いいぞ!俺はここの店主をしているヴィタリーだ。買いたいときには、朝方ならこっちにいると思うから、直接こっちに買いに来い」
「探索者のルイーゼです。その時はこちらにお邪魔します」
「まいどご贔屓によろしくな!」
醸ジュース売りのおじさん、あらため、飲食店店主ヴィタリーさんは人好きのしそうな笑顔でにっと笑い、私の頭、ではなくアイギスを撫でる。
気のせいかな、子ども扱いされている気がする。でも、ヴィタリーさんからは悪気が一切感じられず、嫌な気はしない。
ちょっと迷惑そうに首を振るアイギスはごめんね。
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「~♪」
目的のものを手に入れて上機嫌な私と早くも買い物に飽きて人の首元で襟巻のように脱力して伸びたバロン、
最近間違えて撫でられることが多くふて寝したアイギス一行は東の草原へと向かうために客船を探し歩いている。
醸ジュースの樽をゲットした後、駄目もとで交渉した、あったか十字パンを売っていたご年配のお姉さんは、交換条件と共にパンを提供してくれた。
ポーチの中にしまい込んでいたお赤飯の大半と蛇肉、鷹の爪少々を失って、アイギスお気に入りのドライフルーツたっぷりのあったか十字パンを大量に手に入れた。
ちゃんとドライフルーツがたくさん入ってそうなお店を選んで交渉したため、一見しただけでその影を見つけられるほどたんまり混ぜこんである一品を手に入れている。
また、主食と飲み物を入手したとはいえ、毎日同じものを食べるのも飽きてしまうので、その他の飲食物として冒険者ギルド横のお店にて、
西へ向かう道中にも食した白パンとミルクティーを購入している。