大器晩成な夢
「あの、私、探索者です・・・・・」
「え?そうなのかい!?・・・こいつぁたまげた。探索者にも嬢ちゃんみたいな子供がいるんだな」
本気で子供と間違われていた。今日は大人力上昇の灰色ローブを身に纏っているのに。
「こ、子供じゃないです。歴とした大人です」
よく見て納得してもらおうと両手を広げ、少しでも背を高く見せようと背伸びをして見せる。
おじさんは苦笑して私の頭を撫で、損ねて、アイギスの頭を撫でる。デジャヴ。
「レディを子供と勘違いして悪かったな。お詫びに醸ジュースをまけてやろう」
「え、売ってもらえるんですか?」
さっきも聞いたけれど、先程は子供のお使いと間違えられていたため了承を得られたのだと思う。
その誤解を解いた今、醸ジュースの樽ごとお買い上げが受領されるとは予想外だ。
「ま、正直、醸ジュースは探索者には人気がなくてな。他の食糧より在庫に余裕があるんだわ」
なるほど。たしかに醸ジュースは酸味があって、不思議なコクもあり、慣れていないと飲みにくいというか、玄人向けといか、独特の風味が人を選ぶ可能性を否定できない飲み物だ。
飲みなれると美味しいのだけれど、もっと飲みなれている飲料物が近くで買えるのなら探索者はそちらを選ぶだろう。
「あ、でも、在庫がなくなるほど買い占めるのは遠慮してくれよ?余った醸ジュースにも別の使い道があるからな」
「?何かに使えるんですか?」
「ああ、酵母になるんだよ。こいつでパンができるんだ」
ジュースでパンが作れるとは驚いた。
さらに詳しく話を聞いたところ、醸ジュースで作ったパンを使って次の醸ジュースを作り、さらにその醸ジュースでパンを作る、無限のサイクルによって醸ジュースは製作されているらしい。
おじさんは「うちの醸ジュースは100年ものだ」と誇らしげに話を締めくくり、見えてきた倉庫を指で指し示した。
倉庫は茶色を基調とした木造建築で、細長い花瓶の上に丸い球を乗せたような変わった形の柱が並んでいる。
戸口の上、日本の和室で言う欄間の部分には額縁のような彫刻とその奥の窓には黄色地に赤い丸で囲まれたなんだかよく分からない文字で書かれた解読不明な言葉が見受けられる。
窓は他にも存在し、硝子の容器の中で発酵した黒い飲み物が揺れる絵や木製の樽のような容器に取っ手をつけた入れ物の絵が飾られている。
さらにその上には煉瓦造りの上層階が積み重なっているようで、白縁の大きな窓が並ぶ様が伺える。屋根は三角形で灰色の素材が使われている。
二階三階四階と階数を数えて見上げていた首を正面に戻し、バロンやアイギスを落とさない程度に小さく首を振る。
この国の建物はどれも縦に長く、建物全体を把握しようとすると視線を上空に移動させねばならず、首や目が疲れる。
どの建物も5,6階は存在し、正面に立った時の圧迫感が大きい。
「ここが倉庫だよ。一階は見ての通り飲食店になっててな、その奥に醸ジュースの樽が保存してある」
おじさんはそう言って店の中に入っていく。私も置いて行かれないように少し小走りにおじさんの跡をついていきながら、横目でお店の様子を観察する。
お店の中では老若男女、様々な年齢の男女が幾人かで机を囲みながら椅子でくつろぎ、醸ジュースらしき飲み物を片手に、話に花を咲かせている。
服装からして店内の人々は皆、探索者ではない街人のようだ。おじさんとは全員顔見知りのようで、気さくに声をかけられては気安い様子で言葉を投げ返している。
飲食店と言っていたおじさんの言葉通り、食べ物の提供も行っているようで、
おそらく漬物と思われるキュウリやトマト、キャベツなどの野菜が花のようにお皿を彩る料理や水餃子によく似た形の白い皮でおそらくお肉を包んだものが積み上げられ、
上にパセリが添えられた料理などが机の上に並べられている。
飲み物も醸ジュースだけではないようで、アルコールを摂取したと思われる若い男性が顔を真っ赤にしてお店の中央で千鳥足を披露しながら武勇伝を語っている。