食料調達の勧
そんなクエストにも様々な種類が存在する。
クエストで要求される行為で分けると討伐・調達・護衛・配達の四つに分類可能で、
クエストの発生条件で分けると誰にでもわかりやすい形で受けられる通常クエストとある特殊な条件でのみ発生する特殊クエストに分類できたりもする。
他にも、ゲームや分け方によってさまざまな種類に分類できるが、クエストの中には先着一名のみが受けられる特殊なクエストも存在する。
もしこの依頼が、一人だけが受けられるクエストで、なおかつ、ここで依頼を断った場合に次の人へ受注権が移るのではなく、失敗扱いになるものだったとしたら。
クエストの中でも一度失敗したらそこで終わりというタイプのクエストだったとしたら、お兄さんが一生迷子になり続けてしまうのではないだろうか。
考えすぎかもしれない。でも、可能性はゼロではない。
この仮定があたっていなくとも、クエストの発生条件が状況的に考えてかなり特殊な予感がする。
おそらく、ただ船に乗っただけではクエストは起こらずに、迷子になってお兄さんから謝罪される出来事だけで終わると思われる。
船に乗って、迷子になった場所で降り、尚且つお兄さんに料金を支払うことが条件だとすると次にクエストを発生させる猛者が永遠に表れないこともありうる。
その場合、ここで断った時の罪悪感がメインクーンの雄猫が数匹がかりで圧し掛かってきたとき並みの重さで襲い掛かってくる。
この先迷子のお兄さんを見かけるたびに後悔し、迷った末に平謝りする現場に出くわそうものなら一緒に謝りたくなることこの上ない。
申し訳ない気持ちでお兄さんを見続けるくらいなら依頼を受けたほうが後味も悪くないだろう。
依頼失敗によるペナルティも特にないことだし、こうしてクエストが発生するということは解決策が用意されていると予想できる。
「わかりました。頑張ってメイゴスさんの迷子癖を治して見せます!」
気合十分、しっかりと活を入れ、アリアさんに宣言する。
「・・・そんなに気負わなくても良いんですよ?」
「心配ご無用です、アリアさん!ルイーゼはやり遂げて見せます!」
「船に乗るときに覚えていたら、少し気にかけるくらいで十分ですよ?」
大丈夫です。分かっております。大船に乗った気持ちで安心してください。
私が、このルイーゼが、方向音痴なお兄さんを救ってみせます。両手の拳を顔の横で握りしめ、無言でうなずく私をアリアさんは大層不安げな表情で見つめていた。
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諸々の手続きを終えて、食料調達のための軍資金を手に入れました。さぁ、買い込むぞ。
あったか十字パンに醸ジュースにお肉も魚も買いためてしまおう。食料は大事だからね。
孫子の兵法にも食料大事って書いてあった気がする。兵糧は何たら何たらで何たら何たらしろって言ってたよ。うん、言ってた。
ん?なに、バロン、どうしたの。え?兵法には兵糧は敵地で調達せよって載っているって?輸送コストの削減のために現地調達が推奨されていると?
すごいバロン。さすがバロン。賢いバロン。兵法も履修済みだなんてただ強いだけでなく知識も豊富なんだね。文武両道。格好いい。
格好いいバロンの視界の端を行ったり来たり泳いでいる尻尾触っても良い?え、駄目?ですよねー。
私の両肩に前後の足を乗せてくつろぐバロンの尻尾を触らせてもらおうとしたが、音速で断られてしまった。
視界の端をちろちろと泳ぎ、誘惑してくる尻尾をいつかわし掴んでみたいが、確実に怒られるので実行できずにいる。
さて、話を戻そう。輸送コストの問題で現地調達が勧められているのなら、なおさら今食料の確保をしておくべきだろう。
私には蛇印の霜蛇のポーチがあるのだ。食料によってポーチの容量が圧迫することがない以上、買えるときに買っておくのが良い。
季節限定ものなどは特に1年たたないと出会えないので気に入ったものは今のうちにポーチの中に詰め込んでおくに限る。
という訳で広場近くにて醸ジュースを売っているおじさんに樽ごと欲しい旨を伝える。おじさんは樽ごとの注文に驚いた顔をしたのち、思案顔で黙り込んでしまった。
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感想ありがとうございます。
ちなみにメインクーンの雄猫の重さは6~9㎏くらいらしいです。