猫・人・名
運営はこの国に何の恨みがあるのだろうか。
プレイヤーの同情を買うのが目的なら成功している。少なくとも自分は何かあったらこの国に味方しようと思うくらいには同情した。
腕の中で黒猫が励ますように声を挙げ、頭を擦り寄せてくる。
「ありがとう。大丈夫だよ」
落ち着こう。深呼吸をして、ゆっくりと周りへ視線を移す。
すぐ側を穏やかに流れる運河の音色が子守唄のように心を落ち着かせてくれる。
広場を出て運河沿いに下る道。両脇に建ち並ぶ煉瓦造りの家々は、広場にあった浅緋色の建物たちよりも落ち着いた色合いをしている。
「これは、これで綺麗だね」
黒猫の返事を聞きながら、景色を眺め、満喫する。
冒険者ギルドは運河沿いに真っ直ぐ行った左手側だそうな。
「冒険者ギルドも素敵な建物なのかな?」
黒猫と話しながら歩いている途中で、ふと気が付いた。
猫さんの名前を知らない。そもそも、名前があるのだろうか。
「黒猫さん、お名前は?」
「にゃー」
「教えられない?」
「にー」
「無いのかな?」
「なぁー」
「私が付けて良い?」
「ぅるにゃん♪」
かわっ、可愛い。何しても可愛いとか強すぎる。流石だ。
強烈な魅了を食らって一瞬取り乱してしまったが、気力で持ち直した。私にはこの子に名前を付けると言う使命がある。
黒猫の名前・・・キキとか?あれ、ジジだっけ?黒猫なのは合っているけれど印象が違うな。もっと格好いい名前でないと。
格好いい猫の名前。何があっただろうか。
格好いい黒猫。ジ〇ングル・ブ○クのバギーラとか?猫じゃなくて黒豹だけど。
そういえばこの子は格好いいだけでなく紳士的でもある。
この位の大きさの猫はもっと重いはずなのに、腕に感じるのは子猫のような軽さのみ。
もう少し小さい猫だったが、椅子をとられた仕返しに膝に乗せたら、全体重を前足に掛けて太腿に肉球判子を押されたことがある。あれは肉に食い込んで凄く痛かった。
そう考えるとこの子は体重を掛けないように気遣ってくれているようだ。優しい。
気遣いの出来るジェントルマンな猫の名前と言ったら一つしかない。
「バロン。貴方の名前はバロン」
気に入ってくれたろうか。後頭部に視線を送ると、バロンは振り返って一声鳴いた。
「ミュァ♪」
そのまま私の鼻に自分の鼻を近づけ、キスを――




