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待ち望む爺デレ


ジェラート食べ歩きも終えて綾錦の広場に戻ってきた。


相変わらず紅の美しい広場である。そこに見知った顔を発見した。あれに見えるはギックリオお爺さん!



「ギックリオさ~ん!」


駆け寄ってくる私にギックリオお爺さんの眉間のしわが深くなる。



「なんじゃ、お前さんか」


「はい!先日はありがとうございました」


「ふんっ、儂は知り合いの店に客を紹介してやっただけだ」


ギックリオお爺さんのツンデレは今日も絶好調なようだ。



「花畑市場に行っていたのか・・・」


私の出てきた白い大きな建物に視線を送り、ギックリオお爺さんは言う。


「おいしいジェラートを食べてきました」


「そうか。ピスタチオのやつぁ食べたか?あれこそ伝統の味じゃぞ」


ピスタチオ味?あれ伝統なんだ。お店の人にお勧めされてクリーム乗せで食べたジェラートを思い出す。


緑と白のコントラストが目にも楽しく、濃厚なジェラートの冷たさとさっぽりした生クリームが程よい温度で美味しかった。



「クリームを乗せて食べました」


「よし。分かっておるじゃないか」


あ、ギックリオお爺さんの眉間からしわが消えた。もう一押しだ。ポーチの中から、お土産用とは別に包んでもらった氷菓子を出す。



「これ、先日のお礼です」


釣り独楽に似た包みをギックリオお爺さんに差し出す。お爺さんは無言で包みを睨んでいる。


「ピ、ピスタチオ味です」


「・・・年寄りの機嫌なんかとってどうするつもりじゃ」


別にギックリオお爺さんを攻略しようとなんてして思っていない。


ただ、ちょっと、お友達は無理でもお知り合いとして友好的にお話をしたいなって。


次に西の大国へ訪れる際にも顔を覚えていてもらえたら嬉しいなと思っただけで、ツンデレのデレがもっと欲しいとか思っていないよ。



お爺さんの様子から受け取ってもらえないかと諦めかけたが、ギックリオお爺さんはため息とともに包みを手に取ってくれた。


「また迷った時には助けてください」


「まだ迷う気なのか・・・。しょうがない。気が付いたら助けてやる」



ミッションコンプリート。ギックリオお爺さんにお礼を受け取ってもらえた。


これを足掛かりに次に綾錦の広場へ訪れた時にもお爺さんとお話できるかも。


街で袖振り合った程度の中から、顔見知りくらいには格上げされたはずだ。



ギックリオお爺さんのお国自慢を聞いた後、フォースさんたちの工房に向かう。


工房の扉を外から叩いても返事はなかった。中を覗いてみても、姿は見えない。


また地下にいるのだろうか。揺れる行灯の光だけでは心もとなく、ポーチの中に光源はないかと探る。



『・・・・・・』


ポーチを確認しながら横目でバロンを伺い見る。


ギックリオお爺さんとのお話の後から、何かを考えるように空中を睨んでいる。何か気になることでもあったのだろうか。



「バロン?」


空中に固定されていた視線がこちらに移る。


うっすらと暗い室内で金色の目が黒目がちに大きくなって、一瞬細く小さくなる。


揺れる炎を反射して光る瞳に見つめられて次の言葉が見つけられなくなった。



『…あの老人…故郷と言うのはこの国で合っているのか?』


「え?」


ギックリオお爺さんのお国自慢はこの国で食べられる料理やこの国で見られる造形物に対して行われていたと思う。


ならば、故郷はこの国と言うことなのではないのだろうか。



『この国の料理は、本来、この国のものではないのであろう?』


たしかにロシア風の街並みでイタリアンが出てくるのは違和感があるが、そこはゲーム的なあれそれであって、そういう設定の国なのではないのか。


だって、他の住民たちもイタリア料理を当たり前の日常として受け入れている。だから、



『・・・なに意味のない世迷い事よ、気にするな』


バロンは言うほどの関心もないようで目を瞑り何時もの体制でくつろぎ始めた。


「・・・・・うん」


しこりのように胸の内につかえるものを感じながらも、これ以上は考えないことにする。


ゲームのあれそれなんて現実と照らし合わせて考えるだけ無駄だろう。



ポーチの中身へと意識を戻し、フォース兄さんに預けられた手形を発見する。


忘れずに返さなければとポーチから取り出す。



「わっ」



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