格好いいポーズ
これが名付けの効果なら、もっと早くにアイギスに名前をあげれば良かった。
ずっと、バロンに視線を向けられるたびに怯えるアイギスが不憫で仕方なく思っていたのである。
名前一つで解決するなら恐がらずにさっさと名付ければ良かったな。
『・・・アイギスとは、面白い名をつける』
私の言葉にバロンは喉の奥で低く笑い、楽しそうに言葉を紡ぐ。
「?すっごく強い盾の名前だよね?」
アイギスの名に笑いを誘うような要素はあっただろうか。
詳細は知らないけれど、神話に出てくる強~い盾の名前がアイギスと言ったはずだ。
そこからとった名前だけれど、バロンには愉快な名前に聞こえるのかな。
二匹は特に喧嘩をする様子もなく並んでテーブルに座っている。
名前の話の続きをするつもりはないらしく、各々自分の世界に旅立ってしまったようだ。
好き勝手な方向を向いて寛いでいる。
さて、試食も終わったことだし、引き続きお土産を買いに行こう。
マカロンに似た形のお菓子はおばさまのお店から5軒隣の氷菓子店で買えるんだっけ。
氷菓子店のものは氷菓子になっているとも言っていたな。
1軒2軒と数え歩くと、澄んだ空のように鮮やかな天色のカウンターと白い飾り戸棚が綺麗なお店に到着した。
戸棚には商品の見本が展示されているようで、先程の三色の他に亜麻色のお菓子も置いてある。
氷菓子と同じ色のジェラートも販売しており、冷気が漂う容器の上に組まれた戸棚には焦げ茶色にこんがり焼かれたパンが陳列されている。
もしかして、このパンに挟んでジェラートを食べるのだろうか。パンとジェラートって罪深いほど美味しい組み合わせだよね。
「いらっしゃいませ!ジェラートですか?」
ジェラートをガン見していたら、カウンターに立つお姉さんに苦笑されてしまった。
いや、だって、暴力的な組み合わせを見つけてしまったから。
「五軒隣のお店で氷菓子をお勧めされたんです。お姉さんのお勧めはありますか?」
「ああ!あなたもおばさんにまんまと誘導されたのね!」
私の話を聞いたお姉さんはクスクスと笑って種明かしをしてくれた。
なんと、ここのお菓子をおまけしてくれたおばさまとお姉さんは叔母と姪の関係に当たるらしい。
おばさまはこの国へ来た記念のお土産を探す旅人を見つけると、おまけとしてお姉さんのお店のお菓子を配り、もっと美味しいのが買えるとこのお店を案内するらしい。
「うちのお菓子の見た目は可愛いでしょ?お土産用のは特に力を入れて飾り付けてあるから高めなのよ」
そしておばさまの誘導にかかり、お土産を買いに来た私。
見せてもらったお土産用の箱が凄く可愛くて、説明されなかったら高くても買っていたよ。
お姉さん的にはその方がうれしいと思うけど。
「あら、やだ。さすがに子供からはぼったくれないわ」
こど、子供!?
私の大人力はローブによって上がっているはず、それなのにまだ子供と間違われるというのか。
ローブを見ようとしたが、ない。
大人可愛い灰色のローブはフォースさんたちの工房に預けてあるんだった。
なんたる不覚、大人力の低下に気づかなかった。ここは大人っぽい仕草でアピールしなければ。
冒険者ギルドのターニャさんを思い出すのだ。
あの大人の女性って感じの髪を耳にかける仕草を。
「私、子供じゃありません」
我ながら素晴らしい再現率だったと思うのに、売り場のお姉さんには母猫のまねをしてジャンプに失敗した子猫を見るかのように微笑まし気に見られた。
解せぬ。
お姉さんの勧めでマカロンに似た氷菓子を幾つか紙袋に詰めてもらった。
お土産用の可愛らしい箱ではないけれど、袋が開かないように固定してくれた大きなリボンだけでも十分心惹かれる見た目になっている。
お土産の箱に使うリボンらしい。口止め料としてお姉さんが巻いてくれた。
「はい。他の旅人には内緒でね」
「了解です」
格好良く敬礼した私の頭を撫でようとしたお姉さんが間違えてアイギスを撫でている。
兎特有のやわらかい毛に感動したのか、二度三度と手のひらを往復させる。
わかる。アイギスの毛並みは最高だ。ふわふわのやわらかな毛が気持ちいい。
あ、もちろんバロンの毛並みも最高だ。
もふもふツルツルした指触りの長い毛はいつ迄でも触わっていられる。
なにより、撫で続けても手に毛が付かない。
二匹とも特に毛が抜けたりしないらしく、今日も素敵な毛艶だねって掻き撫でても指の間に毛玉ができないのだ。
抜け毛に悩まされることなく永遠にもふり続けられるもふもふって夢みたい。
毎日幸せを実感している。