鍛冶の工房で議
軽く下げた頭の上と足元に視線を感じる。アイギスとバロンを見ているのかな。
「えっと、相棒のバロンと、アイギスです」
「ふむ。欲しいものはなんだ?」
相変わらず声は大きいものの怒鳴り声ではなくなった。普通の声も出せるんだ。
欲しいもの。ここに来た目的は従魔用の装身具だ。アイギスの防御力を上げるような装備が欲しい。
「この子、アイギスの装備が欲しいんです」
見えやすいように両手のひらを合わせた上に移動してもらったアイギスを二人の前に差し出す。
「・・・・欲しいのは素早さか、魔力か?」
「いえ、防御力です」
「防御力?」
奇怪なものでも見たかのような顔で正気を疑われてしまった。確かにアイギスは小さくて素早さによる撹乱とかが適任そうに見えるけれど。
「こう見えても、アイギスは立派なナイトなんです。今までだって何度も、モンスターの攻撃から守ってくれました」
身体は小さくても我がパーティの信頼できる盾である。
栗鼠の突撃からも、蛇のブレスからも守ってくれた実績がある。
誇らしげに立ち上がったアイギスの後ろ姿を目に焼き付けながらバロンを盗み見る。
今までの経験から尻尾が暴れるころかと思ったが薄目を開けて確認した後は、階段の傍で伏せたまま動かない。バロンが大人しい。何かあったのかな。
フォースさんたちは納得してくれたらしく、装備の形を考え始めている。
「ウサギ型か・・・首輪かハーネスか・・・・」
アイギスは耳を倒してお尻のあたりの毛を少し逆立てる。嫌なんですね。分かりました。
「首輪は嫌みたいです」
「拘束されるのが嫌なのか?」
「ブッ」
「そうか」
考え込んだ様子のフォースさん。えーと、こちらはいつも先に話している方の、フォースさんだ。
追従する方のフォースさんは上から下から矯めつ眇めつアイギスを観察している。
時々、自らの指とアイギスを見比べて何かを確認しているようだ。
「使えそうな素材を出しな」
と、フォースさん、先に話す方。
印象的にこちらが年長っぽいので仮にフォース兄さんと呼ぼう。
目で示された台の上にアイテムポーチの中の素材を置いていく。
鷲の素材は爪が使えるだろうか、鷹の爪は無理だろうな。
ついでに霜蛇のポーチを取り出して、中の素材を移し替えていく。
「おい、羽も出しとけ!皮もだ、皮も!」
途中、フォース兄さんから、使えないだろうと仕舞った素材の一部も台に乗せるよう指示されながら、ポーチの中身を整理する。
鷲鷹の羽に蛇の皮、栗鼠の牙と尻尾、ワンちゃん湿原狼の牙、皮、魔石…だと思ったら、魔石じゃなくて火打石だった。
識別では「湿原狼の炎」という名前で「どこでも簡単に火を起こせる」とある。
あの狼、氷属性じゃないの?フロストウォーカーの効果付きの靴をくれたし、本人、本狼も足元の水を凍らせていた記憶がある。
それなのにドロップ品に「炎」があるなんて違和感がすごい。
あ、湿原狼は金属も落としていた。あれこそ鍛冶に使えそうな素材だ。忘れずに台の上に出す。
霜蛇の素材も出していく。皮と牙と髭?なんか釣り竿もドロップしている。
蛇じゃなくてうなぎか鯰だったのだろうか。一本釣りの天然うなぎ。
かば焼きにしたら美味しいだろうな。
しかし、見た目は蛇に相違なかった。ならば味も蛇なのだろうか。蛇ってどんな味なのだろう。美味しいのかな。
ふっかふかのうな重に思いを馳せてから気づく。あの大蛇、毒がありそうだったなと。
うん、諦めよう。小さい羽の生えた方の蛇から、砂漠蛇の肉なるものが手に入っているので、それで満足しよう。
「袖なしの羽織るタイプにするか…袖はあっても良いか?…腕に着ける装身具は?」
フォース兄さんはアイギスと台の上の素材を見比べながら構想を練っている様子だ。
フォース弟さん?は紙に何かを書きつけている。
アイギスの装備だし、フォース兄さんとアイギスで意思疎通ができるのなら二人の話し合いで決めてもらうのが最適かな。
そう結論付けてアイテムを移し替えた霜蛇のポーチをアイテムポーチの中にしまおうとしたが、できなかった。




