茜色の前菜の汁
「…あの、それは何をしてるんですか?」
「おん?どう見ても砂かきだろう」
砂かき?聞いたことのない言葉だ。
「砂かきせんな、道に砂が積もって歩けんくなる。すみに寄せて固めて道を開けるんじゃ」
なるほど、舗道が埋もれないように砂を除去しているんだな。
しかし、旅人には砂漠を歩かせて足腰を鍛え、住民には砂かきを強要し足腰を試す。ヘクセンシュス、恐ろしい国!
「あの、手伝いとか・・・」
「いらん。とっととその腹の虫を黙らせに行け」
猫でも追い払うように手を振られた。私のお腹の虫は一秒だっておとなしくしてくれない。
ギックリオお爺さんの腰が気がかりだが、お腹が限界なのも確かなので教えてもらったレストランに向かう。
お爺さんは態度こそ乱暴だけど聞いたことは的確に答えてくれるし、優しい人なのかもしれない。
なんというか、ツンデレ?きつい言葉遣いとは反対に心の内は優しさで溢れているんじゃなかろうか。
ほんの少し前のやり取りだって、「お腹が空いているんだろう?早くおいき(意訳)」という意味だったのかも知れない。
やだ、知命もとうに過ぎてそうなお爺さんに萌えてしまいそう。この先に進んでは危険だ。別のことを考えよう。
レストランは近くで見ても色鮮やか。何本もの尖塔が群集した、その先端にしずく型の多彩な屋根が刺さっている。
その色合いは間違いなくマーブ〇チョコ。七色の砂糖でコーティングされた外装を歯で割れば、中からは甘いチョコが出てくる、あのチョコである。
チョコの上に飾られた星形のビスケットも良い感じ。
「・・・おいしそう」
『・・・・・・』
上下から無言の「何言ってんだこいつ」という視線が飛んでくる。
建物の感想としておかしいのはわかっています。すべてお腹が空いているのが原因なんです。私は悪くない。
というか、この建物、テレビで見たことあるぞ。確かロシアの世界遺産。有名な聖堂院だったような。
もしかしなくても、この赤い広場はかの有名な広場だろうか。
アン…何とかの広場も赤かったから広場は赤いものだと思っていた。あの広場ってこんな感じなんだ。
建物の中はこれまた巧緻な絵画が壁一面を彩っており、天井にまで典雅な模様が描かれている。
席に案内されてお品書きを開けば、「赤いスープ」が一覧にある。
この国のモデルがロシアだとすると赤いスープはすなわちボルシチ。食べたことないんだよね、楽しみ。
前菜に赤いスープを頼み、メインに赤の麺、デザートに黒の菓子なるものを注文してみた。
腹ペコとは言えフルコースを食べきる自信はないので三品だけに絞った。
バロンとアイギスにも聞いてみたけど、二匹とも同じもので良いそうだ。
バロンと同じくアイギスも特に食べられないものはないようで、テイムモンスターは皆食物に制限がないのかもしれない。
そういえば、ステータスの確認をしていない。ボスモンスターを二匹も倒したのだからレベルも上がっているだろう。
新しいスキルも候補に挙がっているかも。
ルイーゼLv.9巫女見習い
HP 100%
MP 100%
称号:ナビさんのお気に入り
猫の女王様
スキル:テイム
識別
応急手当
水魔法
医術
鼓舞
候補(木魔法、火魔法…etc.)
スキルポイント:13
レベルが9になっている。スキルポイントも増えているし、何か覚えようか。
必要そうなのは、大蛇みたいに毒を使ってくるモンスターが出てくる可能性を考えて状態異常回復系のスキルだろうか。
鶏がしたように周囲のモンスターを呼ぶスキルを発動させないために相手のスキルを妨害するのも良いかも。
画面と睨めっこしている内に、赤いスープができたらしい。各々の前に配膳され、器の横にスプーンが置かれる。ステータス画面の確認は、また後にしよう。
気が付けば、バロンとアイギスには幼児用の椅子だろうか、テーブルと同じくらいの高さの椅子が用意されている。
よく見るとバロンの椅子の方が少し低い。二匹の体格に合わせているのだろうか細かい気配りが光る。
アイギスのスープ皿の下には厚めのランチョンマットまで敷かれており、給仕の人はエスパーなんじゃないかと感心させられる。
赤いスープは野菜がゴロゴロ入った美味しそうなスープだ。口に含めば濃厚な野菜の旨味にベーコンの塩みが合わさった優しい味わいがする。
舌に広がるトマトの酸味がぼんやりしがちなスープの味を引き締めていてとっても美味しい。
美味しいけど、これ・・・・・




