紛れぬ長杖
冒険者ギルドに隣接した武器防具店へ再びやって来た。
先程、クエスト完了手続きを済ませたので手持ちの資金も増えている。
「おや、お嬢さん、戻ってきたんですね」
「はい。先程ぶりです」
「どちらにするか決まったんですか?」
決まっていない、どうしよう。
好みでいえば、黒い方だが、灰色の方の大人っぽい雰囲気も捨てがたい。
きっと、私に足りない大人の色気というものを補ってくれるはず。これを着れば、もう子供に間違われない、と思う。
「灰色の…いや、黒の…でも、灰色……」
「…杖から決めますか?」
いまだに悩む私の様子に店員さんが提案してくれる。
並べられたのは白、黒、水色の杖。
白と水色の杖は少しだけれど回復関係のスキルに補正が懸かるらしい。黒色の杖は水魔法に少し効果があるとのこと。
白い杖は白銀の輝きを放つシンプルなデザインで、水色は透明感があり硝子に似た質感の杖である。
黒い杖は先端に赤い石が付いた長杖で、水なのに黒なところ以上に赤い石が気になる。水の杖で間違いないんだよね?
杖は杖で悩ましい。そういえば、識別を使っていない。
性能より見た目重視のお店と聞いたため使用することが思い浮かばなかった。このお店での商品選びとしては正しいが探索者としては性能も確認しなければ。
白銀の杖
金属製の白い杖。回復系のスキルに少し補正あり。
御空色の杖
透明感のある水色の杖。回復系のスキルに少し補正あり。
力の長杖
赤い魔石の付いた黒い杖。水魔法に少し補正あり。
識別さんではほとんど何も分からなかった。収穫は黒い杖に付いているのが魔石だと分かったくらいだ。
しかし、黒い杖のみ『力の長杖』となっており、名前が異なる。黒い杖にしようか。
手に持ってみれば細い柄が握りやすく、二又に分かれた石突で安定感もある。これにしよう。
さて問題は、この力の長杖が黒と灰色、どちらのローブにも合いそうなことだ。
そう、黒か灰色か、それが問題だ。
…悲劇の主人公を真似て言ってみたが決められない。
「ねえねえ、バロン。どっちがいいと思う?」
腕の中から肩に移動したバロンに聞いてみるが興味もなさそう。尻尾の先を数度動かし、目を瞑る。
そんな私に頭上のウサギが灰色の服へ飛び乗った。
「ウサギ的には灰色の方がいいの?」
「プゥ」
高い声で鳴くウサギ。ウサギに従って灰色のローブに決める。
これで私も大人の女性らしさを手に入れた!
いや、と言うのは冗談で、たぶん少しの防御力と水魔法の補正を獲得したはず。




