疑惑の判定・困惑の認識
まずはパン。バターがふんわり薫って優しい味わい。
十字の部分は砂糖でできているようで甘くて美味しい。
全体的に甘い仕上がりのパンの中でドライフルーツのほのかな酸味が味を引き締めている。
「ん~~!おいし~~~~!!」
空腹が何よりのスパイスとなって、空っぽのお腹に染み渡る。
あっという間に食べ終えて、次の肉巻き卵へ手を伸ばす。
揚げ物特有の香ばしさと口に入れた瞬間に広がるお肉の旨味、半熟卵がとろりと舌に広がり、お肉と絡み合う。
幸せ。VRで美味しいもの食べられるって本当に幸福だよね。
一昔前はVRでの味覚の再現は禁止されていたらしい。なんでも現実の食事が疎かになる可能性があるとか。
VR内で食事をして現実の食事を忘れてしまう人が現れるかもしれないって。
現在ではそんな迷信も覆されて取り締まりもなくなった。
実際に実験してみたら、現実の食事を忘れる人なんておらず、逆に食欲が刺激されて食べ過ぎてしまう人もいたらしい。
まぁ、夢の中で食べて満足したからって現実の食事をいらないとはおもわないよね。
満腹になったところで口直しに醸ジュースとやらを飲む。
青色の器の中で黒い液体が揺れている。
麦の香りが口の中に広がり、口の中に残った甘みを微炭酸がさわやかに洗い流していく。
甘い麦茶のような、麦茶とコーラを混ぜたような、不思議な味。今までに飲んだことがない飲み物だ。
どことなく発酵した風味もあり、これはもしかして大人の飲み物かもしれない。
隣で同じものを飲むバロンを確認する。
器用に舌を伸ばして容器の中身を掬い飲んでいる。最後の方は容器に顔を突っ込まないと飲めなさそうだな。
ちなみにバロンの容器は黄色、ウサギの分は黒色だった。
広場の露店では売っている品物も色彩豊かである。赤に黄色に橙、緑や青、綾なす帽子や置物が店頭を飾っている。
食品を扱うお店でも、その容器や器で広場の彩に華を添えている。
「バロンって、しゃべれるの?」
バロンの黄色い容器を飲みやすいように傾けながら聞く。
ウサギ蹂躙事件で有耶無耶になっていたため、ずっと聞くタイミングを伺っていた。
『・・・・・弱体化が少し緩んでおる』
弱体化とな?あれだけウサギを虐殺していたが、本来の力には全く届いていないらしい。
うん、まぁ、本来は現状探索者がどんなに足掻いても勝てそうにない相手だ。探索者が苦戦するとはいえ、倒せるようなモンスターを相手に手古摺る様なこともないだろう。
『このような子猫の姿にされて・・・・・』
「え、子猫?!」
『どうした?』
いや、だって、バロンさん。確かに最初の姿と比べたら子供サイズともいえるけれど、猫としてはかなり大きいですよ、あなた。
子猫?子猫なの?子猫って何だっけ?
バロンは何時も凛々しい表情をしていて格好いい印象を与える。しかし、じっと見つめてみれば大きな目に広いおでこ、子猫に見えなくもない。
無理矢理に己を納得させていた私の背後で小さな音がする。
※VRでの飲食等の件はフィクションです。