表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/196

五里霧中


「クゥ~~ン・・・」


この際だからと医術もかけてやれば、地面に伏せていた身体を持ち上げたわんこが甘えた声ですり寄ってきた。


可愛い。猫派だけど、でも、やっぱり、わんこも可愛い。


猫とは異なる硬めの毛も、これはこれで乙なものだ。愛情表現で己に絡みついてくる猫のしなやかな尻尾も素晴らしいが、全力で感情を表現して振り回される犬の尻尾も好きだ。


これで斜め下から感じられる圧力がなければ全力でわんこを撫でまわしただろう。


しかし、そんなことをしたら先程から無言でこちらを見つめているバロンが怖いので控えめにわんこの頭をなでて離れた。



『我らはお主を助けた・・・して、お主は何を差し出す?』


病み上がりのわんこをカツアゲするはやめてあげて下さい、バロンさん。



バロンさんが「もちろん、お前の落とすアイテム以上のモンはよこすんだよなぁ?ああん?」と言わんばかりの顔でわんこを見ている。


のんきな顔で尻尾を振っている場合じゃないよ、ワンちゃん!逃げて!


いや、逃げたら駄目だ。逃げたらバロンに追い回される。猫は逃げる獲物を追うのだ。


そうだ!その場でジャンプして何も持ってないアピールをするんだ。ちゃりんなんて音がしたら危ないからね。気を付けるんだぞ。



「・・・・キュワン?」



わんこは腹を見せて上目遣いでバロンを見た!



『・・・・・・』



しかし、効果はいま一つのようだ。完全猫派な猫至上主義者であるバロンには効いていない!



「クゥ~~ン」



わんこは背中を地面に擦り付けて、その場でゴロゴロと転がって見せた!くっ可愛い!でかい図体して凶悪な可愛さだ!



『・・・・・・で?』



しかし、バロンには効かない!強い!猫強すぎる!わんこの激かわ攻撃を受けても一切動揺しないとは!


さぁ、黒犬選手どうする?判定員バロンさんはそろそろ我慢の限界なようだ。もう後がない。


そろそろ本気で落としにかからなければ猫パンチ一発(相手は死ぬ)くらい飛んできそうだぞ。


ここで黒犬選手に動きが・・・・!ん?あっ、そう言えばわんこの識別してないや。


見た目から勝手に黒犬認定していたけれども実を言うと狼かもしれない。黒狼選手かも。


識別によると種族名は「アロウィヤー」。え、アロウって、arrow?矢?矢なの?生き物ですらないの?


えーと、黒矢選手はもふもふの胸毛とふにふにのお腹のアッピールを諦めて、立ち上がった。


実にキレのある良い動きだ。今もなお、振られ続ける尻尾が素晴らしい。捕まえたい、あの尻尾。


黒矢選手は尻尾を振りながらどこかへ向かうようだ。


ぴたりと頬をくっつけて前を向いた二つの顔と顔に比べたら狭い肩幅、その後姿はまさしく矢印。


進行方向はこちらですと言わんばかりの矢印っぷりだ。私たちがついてこないと見るとその場で立ち止まり、尻尾をふりふりと動かすところも矢印っぽい。



『・・・・・・・』


バロンはそんな矢印の尻尾を凝視している。


あの顔は尾の先くらいなら嚙み千切っても問題ないかなって顔だ。



「あの、たぶん、どこかに案内してくれようとしているんだと・・・・・」


『何処に?』



えーと、どこだろ?竜宮城かな?いや、矢印は亀ではないから竜宮城には連れてけないか。


場所は分からないけれど、おそらく矢印は助けられたお礼としてどこかへ案内してくれようとしているのだろう。


矢印の尻尾に飛びかかりそうなバロンへもう少しだけ様子を見るように説得する。



『・・・我に無駄骨を折らせたらどうなるか分かっておろうな?』


バロンは一応、矢印についていくことに納得したようだ。


しかし、その視線は矢印の尻尾に固定されたままで、なにやら物騒なことも言っている。


矢印っ、矢印くん、バロンの納得する場所に連れて行くんだよ。でないと君の尻尾が危険で危ないからね。そんな呑気に尻尾を揺らしている場合じゃないんだよ。





霧(いや、そこそこ暑いから蒸気?)の中を矢印の先導で進む。


霧が濃すぎて己の歩いている地面も良く見えない。油断をしたら前方を歩く矢印の姿も見失いそうだ。


矢印が黒色で良かった。アイギスと同じ白色だったら、とっくの昔に見失っていただろう。黒色は霧の中でも目立つからね。


・・・いや、違う、おかしい、隣を歩くバロンの姿も良く見えないのに、なぜ前方を歩く矢印の姿は見えるのだろうか。距離で言えば、矢印の方が遠い位置にいるのに。


矢印だからか?矢印わんこが矢印だから矢印補正がかかっているのか?そうだ。そうに違いない。一瞬、怖いことを考えた思考を振り払うように首を振る。



風の音がする。びゅうびゅうと吹きすさぶ風はかなり強いようだ。


周囲は矢印の姿以外見えない。風の音だけが響いていて他には何も感じられない。


そんな不気味な状況だからか、おかしなことを考えてしまったようだ。私は不安を紛らわすようにバロンを腕に抱いた。


バロンは姿が見えなかったものの、ちゃんと隣にいたようだ。簡単に抱き上げることが出来た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ