深山幽谷
バロンは何事もなく、牛?たちを退治してくれました。
勢い余ってわんこも倒しそうになっていたけれども、なんとかわんこも無事です。生きてます。わんこの救出には成功しました。
けれども、わんこの命と引き換えに何か大切なものを無くした気がしてならないルイーゼです。団子よりも花を愛でる心を持った、花も綻ぶ乙女、ルイーゼです。
『・・・・・それで牛肉は手に入ったのか?』
「ウン。ハイッテタヨ。・・・・アリガトウ、バロン」
ポーチの中には何が起こったのか脳が理解を拒絶しているが牛肉が増えている。
しかも、念願の固まり肉である。アイテム名は「幽谷牛の固まり肉」。ステーキだよ。牛肉のステーキが手に入ってしまったよ。
あいにくとお肉の造詣に深いわけではないので部位については分からない。しかし、このお肉が食べられるか食べられないかはだれが見ても分かる。
おそらくこのお肉は食べられないだろう。だって、とても毒々しい色をしているもの。これはお肉がして良い色ではない。
牛?の尾についていた毒蠍と同じ紫がかった黒色だけならまだしも、毒蛇のようなまだら模様までついてきたら、もうこれは毒入りで間違いないだろう。
識別しなくても分かる。毒入ってます!
「えーと、それで・・・ワンちゃんは大丈夫?」
まぁ、本来の目的は牛肉を手に入れることではなく、牛?に虐められていたわんこを助けることなので、たとえ手に入れたお肉が毒入りでも問題ないさ。
はじめから食べられるお肉が手に入らないことは分かっていたさ。
私は気を取り直してわんこに話しかけてみた。
わんこは私の声に反応することなく、地面に伏せている。わんこはバロンが周囲の牛?を倒して近づいてきた時にも無反応だった。
生きてはいると思う。はぁはぁと忙しない呼吸音が聞こえるし、肩も大きく上下に揺れている。
外気に投げ出された舌からはだらだらと涎が出ている。舌を出していない方の顔はぐったりと目を閉じていて見るからに元気がなさそうだ。
これは、もしや、熱中症だろうか。現在周囲は霧に覆われているが、南の地の暑さは変わらず健在である。
むしろ、周囲の霧が暑さによって温められて蒸し風呂状態になっており、非常に不快感を与えてきている。
これでは熱中症にもなるだろう。特に犬猫は汗をかかないし、毛皮があるため熱中症になりやすいと聞いた記憶もある。
「・・・・飲む?」
とりあえず舌を出している方の顔の前にお椀型にした手を差しだし、水魔法で出した水を入れてみる。
魔法で出した水がはたして飲食可能か不安はあるけれども、ほかにわんこに飲ませられそうな飲み物を持っていなかったので仕方ない。
醸ジュースもミルクティーも犬に飲ませて良いものだろうか。ホットチョコは確実に駄目だろう。
というか、熱中症に熱い飲み物はいけない。その点、水魔法の水は適度に冷たいので丁度良いと思う。
砂漠でオアシスを見つけたように鬼気迫る様子で水を飲むわんこを見ながら考える。
熱中症なら塩分も取らせた方が良いのかな?人間の場合は塩と水をとらせるけれど、汗をかかないわんこには必要ないだろうか。うむ、やめておこう。塩分の取りすぎは危険だし。
それよりも、水を飲めそうにないもう一方の頭をどうしようか。
虐められていた黒いわんこには近づいてみると顔が二つあった。伏せていたし、片方は力なく項垂れていたので、牛?たちの影になって見えなかったようだ。
しかし、双頭の犬か。三つある犬ならどこかの神話に出てくるのを知っているけれど、二つの犬もいただろうか。なんて考えを巡らせる余裕はあまりない。
何故なら水を飲ませられていないわんこの頭が元気ないからだ。
一応、話しかけるとほんの少しだけ耳が動いたり、目が開いたりするので意識はあると思うが動くだけの気力はないようだ。
水を飲んでいる方の顔とは身体で繋がっているため、片方に水を飲ませればもう片方も元気になるのではないかと期待したが、そう上手くはいかないようだった。
水魔法の新技をわんこに使えば身体の体温も下げられるかもしれないが、あれは味方にしか使えない。
水魔法で水をかけても相手の体温は奪えないが、やらないよりはましだろうか。
とりあえず心臓を避けてわんこの身体に水をかけ、手団扇で風を送ってみる。
水魔法のレベル上げをしていて良かった。以前の洋杯程度の水量ではわんこに水をかけるのも一苦労だった気がする。
目の前のわんこは思っていたよりも大分大きい。顔だけでも中型犬の胴体にも勝る大きさだが、その顔二つ分に見合う大きさの身体はもっと大きい。
大型犬の中でも特にビッグなセントバーナードやコモンドールよりも更にでかい。
彼らの二倍、三倍の大きさをほこる巨大な犬に洋杯一杯の水で挑むのは無理があっただろう。
特訓後の今はバケツ一杯分くらいはあるのでまだましである。それでも一回の水かけでは足りずに何度も水魔法を使用することになったが。
しかし、頑張った甲斐あって、力なく項垂れていた方のわんこも少し元気を取り戻したようだ。
どんなに呼びかけても薄目しか開けなかった目が、ぱちりと開いた。
すかさず、少しだけ顔を浮かせたわんこの前に水魔法で出した水を差し出せば勢いよく飲み干した。
なんとか二匹(いや、身体はつながっているから一匹か?)とも熱中症から回復させられたようだ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
何度打っても「地」が「血」になってしまうのは血に飢えた生物がいるからでしょうか。