表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/196

獅子乃谷


その後、バロンの好物がワインだと以前聞いたことを思い出して、ワインを買っていくかバロンに尋ねたが、バロンの答えは「冷たいものがあるなら」だった。


うん。この国ホットワインが主流らしいからね。私は冷たいワインが買える場所を受付で聞いてみたよ。


受付の人には物好きを見るような目で見られたよ。ホットじゃないワインを欲しがるなんて信じられないって顔だったよ。・・・解せぬ。



ホットじゃないワインを探すのは時間がかかると見たバロンはすぐに幻の浦島さんの猫、もとい、いじめられている(とバロンは思っている)猫探索に意識を切り替えた。



『ワインは何時でも良い。それよりも早く子猫を見つけてやらねば』



そう言って私を急かしたバロンさんには、まだ私にバロンズブートキャンプを施しそうな雰囲気はなかった。



南の国周辺の探索は西側から始めた。


この熱射の国は東西南北それぞれに門がある。私たちが泊まった宿からは東側の門が一番近い。


それでも反対側の西門から出発したのはアイギスの意見を聞いたからだ。明確な理由があるわけではないけれど、方角決めなどはアイギスに頼むと良いことが起こりそうな気がしたのだ。


だから私たちは街を横断し、西門へ向かった。


その西門の近くには森があった。門から出て直ぐそこに森があったのではない。街の中に森があったのである。


白っぽい樹皮で背の高い木々が並び立つ森の中は街中よりも涼しかった。気温の違いを不思議に思いながらも木立をぬけた先では見覚えのある青い炎を見つけた。


宿の部屋にもあった一件暖房器具に見える冷房器具だ。「この辺りは涼しいね。マイナスイオンってやつかな」とか会話していた矢先のことである。


冷房器具で森を冷やすとは斬新なアイデアだ。森の木は寒い地域に自生する白樺に見えたので、木が暑さで火照らないように置いてあったのかもしれない。


とりあえず見つけた冷房器具にはりついたアイギスと私を後目に先を急ぐバロンさんは、やはりまだ私にブートキャンプを課しそうには見えなかった。



西門を出てすぐに、バロンは解き放たれた。


南の高台や山道とは出現するモンスターが違うねと門の傍で話し合う私たちを置き去りにして、目につくモンスターを殲滅していく。


幸い、他の探索者は見える範囲に居なかったので、バロンは思う存分、モンスターを駆逐した。


私とアイギスはモンスターの見当たらないフィールドをのんびりと散策し、バロンは私たちの進みに合わせながらモンスターを狩り進んでいた。


うん。この時点でも、まだブートキャンプの気配はない。



しばらく進むと他の探索者の姿が散見されるようになった。


西や東は何故だか探索者の姿が少なかったけれど、南には結構来ているようだ。モンスター相手に戦闘を繰り広げる集団がちらほらと見られるようになる。


こうなるとバロンがモンスターを殲滅しながら進むことはできない。他の人が戦っている敵を横取りしたらいけないからだ。


バロンさんも以前の話し合いでそこらへんは理解してくれている。


数の増えた探索者の姿に不満そうな様子で尾を揺らしたバロンは狩っても問題ないモンスターを判断しながら叩くのも面倒だと思ったのかもしれない。


フィールドを駆け回ることは止め、私たちの隣をゆっくりと歩み始めた。


何時ものバロンなら探索者やその相手モンスターも障害物に見立てて遊ぶのだが、今回の目的はあくまで猫探しである。


遊びに夢中になって浦島さんの猫を見逃したらいけないと考えたのだろう。


バロンは私たちの隣を真剣な眼差しで子猫を探し歩いていた。わたしはつまらなそうに揺れるバロンの尻尾を凝視しながら進んだ。



風向きが変わったのは、おそらくこの後だ。


子猫を探して牛歩で探索していたバロンさんであったが、捜索にはすぐに飽きた。


出てくるモンスターも代わり映えしないし、他の探索者がいるため思う存分に遊べないし、子猫は影も形もないしで飽きたバロンは近くにいるモンスターを死なないギリギリのところで手加減して叩く遊びを始めた。


猫がよくやる獲物を瀕死にして放置する遊びである。猫の戦利品に死んでいると思って不用意に近づいたら実は生きてて大惨事と言うことはよくことである。


夏場の蝉とか心臓に悪いので本当にやめてほしい。私が何度騙されて絶叫したことか。鳥などの場合も困る。血まみれのまま部屋中飛び回られる恐怖よ。


とにかく、そんな風にひとしきり放置して遊んだバロンはモンスターを瀕死にとどめる手加減を学んだようだ。


バロンは叩くモンスターのほぼすべてを瀕死にすることができるようになった。


手加減を覚えたバロンは私の目の前に瀕死のモンスターを差し出してこう言った。



『ほれ、叩け。訓練じゃ。・・・・・おぬしはあまりにも弱すぎる。』



どうやら暇つぶしついでに私の訓練をすることにしたらしい。


バロンさんは東に向かう際、私が蚊相手に大苦戦していたことを覚えていたようだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませてもらっています。(読み始めたのは最近ですが) 前の回は”バロンズビートキャンプ”となっていて、「おおっ!叩く訓練だ!」と思ったのですが、今回は”バロンズブートキャンプ”で普通…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ