背井離郷
「ああ!でも・・・・無事にたどり着けて良かった・・・!こんなに小さいのによく頑張ったね・・・・!」
男性は何か勘違いをしている気がする。いや、それよりも・・・・
「——小さくないです!私、立派な大人なんです!これでも東西南いろいろな所を旅して来たんですよ!」
東は国には着いたけれども街の中には入っていないし、南も今着いたばかりだけれども、でも、それでも、私は立派に東西南の道を旅して来たのだ。
暴れる怪獣の余波にアイギスと私は耐え抜いて来たのだ。
「え?ああ・・・うん。そっか。それは凄いね!いろんな国を回って凄いねぇ」
「あ、いえ・・・それほどでもないです」
凄い凄いと大絶賛してくれるセドネフさん。しかし、そこまで手放しで褒められると少し気が引ける。
私は自分たちの旅の軌跡を力説し、私が大人であることを証明するのを止めた。
最初の勢いを無くしてまごつく私に気づくことなく、セドネフさんが言葉を続ける。
「そんなに旅してるなら、どこかで僕の幼馴染みに会わなかったかい?タチニアと言うんだ」
「タチニアさん?」
響きはターニャさんに似ているけれども、彼女は西の国の冒険者ギルドの受付嬢だ。セドネフさんの幼馴染みということはないだろう。
ターニャさんは西の国を心の底から誇りに思い、愛している雰囲気があった。西の国がターニャさんの祖国なのだろう。
セドネフさんがどこの国出身かは知らないけれど、西の国で生まれ、西の国で育ったと思われるターニャさんがセドネフさんに探されているとは思えない。
だから探し人はターニャさんとは別の人だろう。
「あぁ、いや、いいんだ・・・・生き別れたのは大分前だから」
私が記憶の海から心当たりを探している内に、セドネフさんは直ぐ様発言を撤回して別の話題に移る。
そんなセドネフさんは聞いては見たものの、見つかるとは思っていないように見える。
「それより、何か困っていることはないかい?同郷の後輩を助けたいんだ」
「同郷・・・・」
「そう。僕も胃痛国出身なんだ。君と同じように国を追い出された先輩だよ・・・・・僕は君のように自力では辿り着けなかったけれど・・・」
なんとセドネフさんは胃痛国出身だったのだ。ならば、やはりターニャさんは違うな。
そして、やっぱり、誤解されている気がする。
何故だか分からないけれど、私は端から見て探索者に見えないらしい。胃痛国でもウォルターさんに誤解された。
たしかに私は胃痛国からきたが、胃痛国出身というと語弊があるように思う。探索者は果たして胃痛国生まれと言えるのか。
「あの——」
セドネフさんの誤解を解こうと口を開いたが、伸びてきた手に閉口する。
「自力で無事に大国まで辿り着けるなんて偉いねぇ」
セドネフさんはそう言いながら、私の頭を撫でようとしてアイギスの背中を撫でた。
そういえば先程アイギスの様子を確認した時に定位置へ移動させたんだった。
意識のあるときなら撫でられることを嫌がるアイギスだが、今は気絶中なので反応がない。
若干、先程までよりも魘される声が大きくなったような気がするが、起きる様子はない。
「えーと、仲間のアイギスです。今は訳あって眠っています」
「そっか。頼れる仲間がいて良かったね」
「はい」
アイギスたちのことを頼れる仲間と呼んでもらい嬉しく思いながら返事をする。
そこでバロンに視線を向けたら、微妙な距離を開けた位置で前足を交差して伏せていた。
私の視線に気がついても尾の先を振るだけで此方に近づく意思は感じられない。
バロンは会話に参加する気も、セドネフさんに紹介される気もないようだ。
「それで、何か困っていることはないかい?」
数秒アイギスの毛皮を堪能して満足したセドネフさんは再度、私に困り事はないか聞く。
私は何かあったろうかと考えた。
「宿の場所を知りませんか?それから冒険者ギルドの場所も。南の大国に着いたばかりで何も知らないんです」
アフロになったまま治らないバロンの毛を見ながら告げる。
とりあえず宿を見つけて、あの毛を整えないと。櫛で梳いて何とかいつものさらさらストレートに戻ってほしい。
巻き毛のバロンも可愛いけれど、微妙に縮れているので手触りがいつもと違うのだ。
私はいつもの手触りが好き。それにバロンが見慣れた姿じゃないと落ち着かない。
「そうなのかい?なら、この国の歩き方を軽く説明しようか?」
「ありがとうございます!」
何にも知らないという私に少し驚いたような表情をしたセドネフさんが南の大国の概要を教えてくれるというので、笑顔でお礼を言い即座にお願いした。