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多湿高温


『・・・さて、子猫を探しに行くぞ』


「まって、バロンさん、待って」



南の大国に到着して、周囲の確認をしようと目を開くと同時に、バロンが口を開く。


バロンさんの頭の中をまたしても子猫が占拠してしまったようだ。


気がつけば陽が大分傾いてきている。ボス戦をしている内に本当の日暮れが近づいていたようだ。


もうすぐでボスフィールドと同じ空の色へと変わるだろう。



「一旦、宿で休もう?もう遅いし、探索は日を改めよう?」



今探索に繰り出したところで、すぐに夜がきてしまうだろう。


夜通し探索するのは嫌だし、野宿も困る。それに、せっかく新しい街にやって来たのだから観光もしたい。


なによりも、宿を取ってバロンをブラッシングしたい。



『子猫が我を待っておるのじゃぞ?』


「子猫も助けてくれた恩猫がアフロじゃ困惑するでしょう?」



わーい!助けてくれてありがとう!って駆け寄った恩猫が猫?と疑問視したくなる大爆発ヘアーをしていたら困惑するだろう。私ならする。


だから大人しく宿でブラッシングを受けて。私にもふもふを治療させて。



『むぅ』


「アイギスも気絶したままだし、今街の外に出るのは危険だよ」



アイギスは夢の世界に旅立ったまま、戻ってきていない。


よほど磯巾着の騒音が答えたのだろう。夢の中でも騒音被害にあっているのか魘されている。


時々、両前足が耳に向かって伸ばされて、途中で止まり震えている様子はなんとも哀愁を誘う。



『・・・・・わかった』



バロンの説得に成功し、改めて南の大国の街並みに目を向けた。


ここは緑豊かな公園のようだ。全方位が背の高い木に覆われている。


その木の奥にうっすらと建物らしき影が見えるので、街中ではあるようだ。東のように森の中ではなくて良かった。


背後を振り返れば銅像がある。男の人の銅像の前に一段低くして女の人の銅像が立っている。


女性は女神さまのような恰好をしており、その足元には水が流れている。


どうやら噴水になっているようだ。女神さまの台座の下、白いミストのようなものを上げながらたまる水を眺めながら思う。



「・・・・・暑い!」



この国についてから、耐熱耐寒装備をもってしても誤魔化しきれない暑さが私を襲っている。


羽織っているローブを脱ぎたい衝動に駆られるが、このローブには暑さを和らげる効果がある。


ローブを脱ぐのは逆効果だろう。



「・・・でも、やっぱり、暑い!」



しかし、ローブを脱いでも下は長袖である。しかも、私、ひざ丈スカートの下はタイツだ。


このゲームでは初期装備のデザインが幾つかあって、私はその中から一番大人っぽいと思ったひざ丈スカートを選んだのだが、こんなことならショートパンツにしておくべきだった。


いや、ショートパンツも下にタイツはいてたな。初期装備はほとんどが肌の露出が少ない安心設計だった。


半袖はあってもノースリーブはなかったし。結局、どれを選んでも今暑い思いをするはめになることは変わらなかったのだ。


過去を思い返しても現状は変わらない。今を乗り切る方法を考えよう。そうだ。目の前のミストに手をかざせば少しは涼めるかもしれない。



「って、熱っつい!?」



ミストだと思っていたものは湯気でした。流れている水も水じゃなくてお湯だ。


女神さまは足湯中だったのだ。



「君!大丈夫かい!?」



思わぬ熱さに叫んだ私へ心配そうな声がかかる。


声の主は若そうな男性のようだ。良く言えば優しそう、言葉を選ばなければ虫も殺せなさそうな雰囲気の男性だ。


驚きに数瞬固まってしまい返答が遅れた私へ悲壮な表情を青ざめて男性が駆け寄ってくる。



「もしかして、怪我を!?」


「だ、大丈夫です。怪我はありません。吃驚しただけ・・・・」



私の返事に男性は心の底から安堵したようなため息を吐く。



「良かった・・・・僕はセドネフ。・・・君は旅人かい?」


「アン・・・胃痛国から来ました。ルイーゼです」



アン・・・何とかの正式名称を言おうとしたけれど、思い出せなかったので探索者の間で共有される通称を告げた。


相手が探索者ならば通じるけれども、目の前の男性にも分かってもらえるだろうか。


以前、クロウさんから別の言い方を聞いたような記憶があるけれど、何だったっけ。



「やっぱり・・あの国か・・・・・・君のような小さな子まで・・・・」



通じた!胃痛国は万国共通の呼び名となりつつあるのか。


通じてよかったような、通じてしまって悲しいような、複雑な気持ちである。



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