油断大敵
その時、信じられない光景が私の目に映った。
大魔王が七色の光に包まれたと思った瞬間、大魔王のHPバーも同じように光り出す。
そして、攻撃により黒くなっていた部分が虹色に染まり、残っている体力を示す緑色の部分と混ざり出す。
双方の境界が波打ち、境が消えていく。
え、うそでしょ・・・。せっかく削った大魔王の体力が全快にっ!
しかも、それだけであきたらず、大魔王は見覚えのある動作で逐次ポーズをきめ、レースがふんだんにあしらわれた可愛らしい衣装を身に纏っていく。
お前もメタモルフォーゼするんか――い!?ハンスよりましとは言え、あまり見たいものでもない。
ちなみに、大魔王の衣装は黒地に桃色のレースの腹出しスタイルである。
あ、相方キタ――――!?
「ブラックだ――――ッ!?」
最後の決めポーズまで、しっかり決めて大魔王が謎の光をおさめていく。
これでやっと攻撃が出来るようになる。と、思ったけれど、光は完全に消える前に再度輝きをまし、大魔王の背後に巻物が現れる。
大魔王は閉じていた背中の羽を広げ、両手を軽く開いて見せる。巻物から七色の光の段幕が周囲へ散らばる。
「なんだ、これは!?」
「え、え?なに!?」
大魔王は後ろへ大きく仰け反る。
エクソシスト再び!?戦慄する私たちを置き去りにして、大魔王の両手は地面につくことなく、中途半端な態勢で固まる。
イナバウアーか、これ?
固まる大魔王の背後に浮かぶ巻物には白と黒の図形が描かれている。
黒いのは皆同じような長方形だが、白いのはざっと見で三種類が存在するようだ。
一つはL字形のようなもの、もう一つはそれを反転させたようなもの、それから凸字形のものもある。
長い巻物にずらりと並ぶ記号の羅列。いったい、これから何が始まるのだろうか。
『なんなのだ、これは!』
バロンが攻撃の出来ない状態が続くことに苛立ったように叫び声をあげている。
皆が皆、何が起こっているのか意味が分からず、混乱に支配された戦場にポーンと一音の、ピアノの音が響き渡る。
それと同時に大魔王の背後の巻物から逆L字形の白い半透明な記号が浮き出てきて、こちらへ向かって飛んでくるのが見えた。
大混乱な私たちの目前には画面が現れて、これからの戦闘のルールを説明してくる。
私たちは大魔王の後ろから飛んでくる図形に合わせてポーズをとらなければならないらしい。
黒ならその場で跳んで大地から両足を離す。L字なら右足をあげて左足だけを大地につける。逆L字なら左足だけをあげる。凸なら両足を大地につけたまま待機。
『なんなのだ、これは!?』
バロンが二度目のシャウト。
うん。私も現状についていけないよ。頭がうまく回らない。理解が追い付かないよ。
けれど、大魔王は私たちが正気を取り戻すまで待ってくれる慈悲など持ち合わせていないようで、逆L字の物体はすぐ目の前に迫ってきている。
やばい、え、逆L字は右だっけ?左だっけ?あ、だめだ、足が絡まっ――!?
「ふべらっ」
出だしから転けた。恥ずかしい。しかも転けた後に立ち上がろうとしても立ち上がれない。
かろうじて首だけは動かせるが両手足が地面に貼りついて固定されている。
やだ、スカート捲れてないよね!?セミロングだからそこまで酷いことにならないはず。足に伝わる感触的には大丈夫だ。
必死に見た背後では同じように倒れているリーダーさんがいた。スカートは捲れていない。
前を向けば続々と倒れ伏す仲間たち。絶望的な状況だ。
ルールなんて知ることかと大魔王に襲いかかったバロンは謎の光に阻まれて、攻撃することかなわず、ずるずると地面に落ちていった。
その態勢のまま固定されて、怒りか羞恥からか小刻みに震えている。やべぇな。
残るは盗賊二人組。さすが盗賊、速さにものを言わせて無理矢理体勢を立て直し、大魔王の音弾幕に食らいついている。
おもちゃさん、お父さん、頑張って!
と、応援している間におもちゃさんが転けた。なんだか不思議なポーズで固まっている。
上半身を捻り、右手をピースの形で掲げ、左手を握りこぶしで下げている。
見方によっては非常口を示すピクトさんにも見える。転んだだけなのにこんな芸術的な格好になるなんて、さすがおもちゃさんだ。
「お父さん、頑張って!」
「お父さ―――ん!」
最後に残ったお父さんへ皆から声援が飛ぶ。
「誰がお父さんだ!?」
え、お父さん、お父さんって呼ばれるの嫌なの?どうしよう、ずっとお父さんって呼んでたけど変えたほうが良いかな。
「あ、ルイーゼちゃんは良いよ!お父さんでもパパでも好きに呼んでくれ!」
お父さんは、はっと此方を振り返り、そう叫んだ。お父さんはお父さんで良いようだ。
しかし、戦闘中?うん、戦闘中、に余所見をするのは危険だ。




