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炎上魔王


見たかんじ、リーダーさんとサルミアッキさんは何時もどおりに回避が間に合ったようで攻撃は当たっていない。盗賊コンビも無事のようだ。


肝心のウォトカさんは近くにいたお2さんに場外へ蹴り出されていた。


勢いよく飛び膝蹴りで蹴り飛ばしたため、お2さんも一緒に炎龍の軌道から外れている。


お2さんは猫科らしいしなやかな身のこなしで着地し、武器を構えた。


対する蹴り飛ばされたウォトカさんは勢いに負けて地面へ引き倒され、潰れている。まぁ、なんにせよ無事でよかった。



「そこの酔っぱらい立て――!!立ち上がるんだ――――!!」



リーダーさんが回復を飛ばしながら、ウォトカさんを激励している。


筋肉さんへ医学と応急手当を繰り返しながら、ウォトカさんの様子を伺っているが、顔面から地面に引き倒されたウォトカさんはぷるぷると震えたまま立ち上がる気配がない。


背中に鍋が覆い被さっているため、その姿はドワーフというより亀みたいだ。起きあがれない亀。


その亀の頭に一際、大きな音を立てて張り扇が振り下ろされる。



「呑兵衛!酔って立てないなら、せめて手足引っ込めて防御しろ!!」



え、ウォトカさん酔ってるの?たしかに戦闘開始からここまで、かなりの量を飲んでた気もするけれど。


うーん、視界の端に飲んでる姿がチラ見えしてただけだから、正確な飲酒量はわからないな。



「ちなウォトカは水だ!酔わない!!」



背中に乗った大鍋をずらして落とし、ウォトカさんが立ち上がる。


さらに、腰に手を当てて酒瓶の中身をイッキ飲みする。まだ飲むのかウォトカさん。あの人酔わないのかな。



回復にてんやわんやな私たちを後目にバロンは大きく跳躍し、差し向けられた大魔王の羽団扇に飛び乗る。


そのまま、大魔王の腕を伝い、魔王の顔へ近づいていく。


振り落とそうと暴れる腕を意にも介さず肩まで上り詰め、大魔王の顔へアッパーカットをきめて戻ってくる。


バロンの重い一撃に脳を揺さぶられた大魔王が一瞬、ふらついた。


バロンが稼いでくれたこの時間に私たち回復職は急いで前衛の体力を回復させないと。



「リーダーさん!手伝いは要りますか?」


「大丈夫!慣れてるから!その分、筋肉に集中して!」


「了解です!」



話しながらもリーダーさんは回復の手を止めず、前方では張り扇の音が絶えない。


大魔王の次の攻撃までに回復は間に合うだろうか。医術の再使用可能時間が終わるのを待ちながら、前衛の様子を窺う。


バロンの攻撃に続いて盗賊コンビも攻撃を加えているが効果はいま一つのようだ。HPはわずかに減るものの、大魔王にはあまり効いた様子がない。



「まかせとき!とっておきのをお見舞いしたるわ!」



反撃の準備を始めた大魔王の前にお2さんが躍り出る。


幅広の剣を構えて、両足に力を入れ、腰を落とす。


次の瞬間、全身の筋肉がばねのようにしなり、その身体が大きく空へ跳躍した。


大魔王へ頭上から叩き落すような斬撃が放たれ、刃の当たった羽毛から火の粉が溢れる。



「真虎陽炎!焼き鳥にしたるわ!カラス野郎!」



大魔王の羽毛に火が燃え移り、炎上した。かすかに煙も上がっている。


鴉の焼き鳥は美味しくなさそうだけど、ナイスです!お2さん!



炎上大魔王は反撃よりも己の身体に点いた火を消すことを優先したようだ。


羽団扇で雨雲を呼び寄せる。大魔王に招かれた雨雲は雨を降らせ、その身体に引火した炎を消す。


不思議なことに、この雨は水の当たる感触はすれど、衣服を濡らすことはないようだ。


アイギスのもっふもふな毛も濡れ鼠のように萎れることもなく、膨らんだままである。



お2さんとリーダーさんの奮闘により、危険ゾーンへ突入していたウォトカさんの体力も含めて、皆がなんとか次の攻撃も耐えられそうなくらいに回復できた。



「よし!順調!この調子でいくよ!」



大魔王の反撃に大きくHPを持っていかれて対応に追われることはあるけれど、誰もかけることなく順調に大魔王の体力を削れている。


この調子で攻守を繰り返せば、大魔王を倒せそうだ。


医術や応急手当を使ったことで減ったMPをMPポーションを飲んで回復しながら、戦況を整理する。


MPポーションは通常のポーションよりも所有数が少ないが、この消費ペースなら問題ない。


多人数での戦闘における回復にも慣れてきて大幅に減った仲間の体力にも慌てずに対処できるようになってきた。この調子ならいける!




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