落花狼藉
バランスを崩した大魔王へ畳み掛けるようにお父さんとおもちゃさんの盗賊コンビが攻撃を加える。
お父さんは自らの爪をおもちゃさんは短剣を武器としている。私の爪は猫のように出したり、引っ込めたりできないけれど、お父さんの爪は伸びたり、縮めたりできるらしい。
鋭い爪を大魔王の手に突き立てようとしている。しかし、大魔王のもふもふな羽毛は見た目よりも硬いようで思ったようにダメージを与えられていないようだ。
鋭い舌打ちと共に二人は大魔王から一度距離を取った。
次いでお2さんの攻撃。大魔王が体勢を整える前に背から引き抜いた幅広の剣で切りつける。
さすが虎。力強くダイナミックな動きだ。装備で分からなかったが、お2さんもかなり筋肉がついている。
裾からチラ見えした腕がかなり太い。そのしっかりと筋肉の付いた腕を大きく振りかぶって切り降ろされる斬撃は強烈そうだが、大魔王の硬い毛皮を切り裂くには足りなかったようだ。
鎌のように曲がった刃が大魔王の身を断つことはなかった。しかし、まったくダメージが通らないという訳でもない。
おもちゃさんに教えてもらった敵モンスターのHP表示方法により、確認可能となった大魔王のHPバーが僅かに変動している。
大魔王の反撃。手に持った羽団扇が大きく振りかぶられる。その切っ先に紅蓮の炎が生み出され、龍のようにうねる。
炎の龍は大きく口を開け、私たちを飲み込まんと言わんばかりに襲いかかってくる。
「散開!」
咄嗟に左右にわかれて龍の突撃を回避する。
幸い、回避の下手なウォトカさんと筋肉さんは元から龍の直線上に居なかったため、直撃は食らっていない。
私とアイギスも龍からの距離があったために回避が間に合い、火傷などは負っていない。
龍が通りすぎた後の熱気を孕んだ風に邪魔をされて目を開けられない。
はやく、直撃はしていないとは言え、ダメージは負っているだろう筋肉さんを回復しないといけないのに。
なんとか瞼をこじ開けて、筋肉さんに医学を使用する。ウォトカさんへは既にリーダーさんの回復が飛んでいる。
おもちゃさんとお父さんにも回復が飛んだようだ。始めに聞こえた大きな破裂音に次いで、二発重なるように少し小さな破裂音が聞こえた。
お2さんはウォトカさんの背後にいたため、ダメージを受けていないようだ。
お2さんを庇ったウォトカさんはリーダーさんの回復でも戻りきらなかった体力を補うようにお酒、じゃないポーションをがぶ飲みしている。
漆黒のサルミアッキさんは私たちと同じく後衛のため、上手く避けられたようだ。
炎の龍に持っていかれた体力が回復するのを確認した筋肉さんは医学による回復エフェクトが消えるのも待たずに大魔王へ突撃する。その手に斧はない。
「え、斧は!?」
背中の斧は抜かれることなく、拳による攻撃だ。大魔王の巨体へ下から抉るような拳撃が叩き込まれる。
しかし、バロンが攻撃したときのように体勢を崩すことはないようだ。両足ともにしっかりと地面についている。
それにしても、大魔王が飛んでいなくて良かった。もし飛翔されたらバロン以外、攻撃が届かなくなってしまう。
いや、遠距離攻撃なら届くかもしれないので、もしかしたらサルミアッキさんも攻撃可能かもしれない。
「不死の冠、形成せし地錦よ・・・汝が背の君を捉えて絡めて離すな!死んでも離れぬ不滅の乙女!パルセノキッサスの楔!」
なにそれ格好いい。・・・じゃない。当の昔に封印したはずの厨二心が刺激されてしまった。危ない。
なんか格好いい詠唱をしたサルミアッキさんは片手に握った杖で軽く地面を叩いた。
地面につかれた杖の石突から黒々とした蔦のようなものが生える。蔦は地面を畝りながらも大魔王へと伸びていき、その両手足を拘束するように絡みつく。
手足に巻き付いた蔦はさらに伸びて大魔王の首へと向かう。まさか絞殺。サルミアッキさんは既に仕事人の仲間だった?
幾重にも巻き付いた蔦が大魔王の首を締めるかと思ったその時、大魔王は両手を天へ伸ばし、絡みつく蔦を引きちぎった。
足に絡まった蔦も同じように力づくで引きちぎっている。
しかし、ちぎられた蔦を見てもサルミアッキさんは余裕な様子だ。地面についた杖を前に押し出し、詠唱を重ねる。
「白無垢の芳紀、婿待ちし乙女よ・・・汝を粗暴にせし狼藉者へ裁きを!汝を映さぬ眼は要らぬ!リンデンビバーナムの膺懲!」
詠唱に応じて未だ大魔王に纏わりついている蔦から芽が出て花が咲く。
小さな黒い花が群集して咲くあれは何の花だったかな。黒い花の記憶がない。
白無垢って言ってたのに花の色は黒だし、本来は違う色なのかもしれない。
その群集する黒い花からこれまた黒い粉のようなものが噴き出す。花粉かな?黄色くないけど。
その花粉が大魔王の目に向かって飛んでいき、天狗の仮面のくぼみの中へと吸い込まれていく。
花粉が目に入ったらどうなるのか、そんなの分かりきってるよね。花粉の襲撃を受けた大魔王は目が~目が~と言わんばかりに、目を押さえて天を仰いでいる。
春先の花粉、つらいよね。痒くて目が充血しちゃう。




