肉体言語
おもちゃさん曰く、ウォトカさんはウォッカを飲んで自己回復するスキルか、もしくはポーションと同じ効果を発揮するお酒を造り出せるスキルがはえるように修行中なのだそう。
現在はお酒と混ぜても何とか効果を発揮するポーションをつくることしかできないらしい。
そのため、はやく欲しいスキルがリストに出現するように、戦闘中はダメージを受けまくってお酒(ポーション入り)がぶ飲みしているのだとか。
ボス戦でも、強敵相手でも気にせず修行続行するのでウォトカさんが死にかけるのは日常茶飯事だと言う。
「酒飲んでれば何とかなる」と言って無茶ばかりするので、よくリーダーさんに怒られているらしい。リーダーさん、お疲れ様です。
「騒がしくしてごめんね、ルイーゼちゃん。こっちの問題児は俺が見るから、あっちの筋肉は頼んだよ」
戻ってきたリーダーさんとウォトカさん。ウォトカさんのお鼻はお酒を飲んだせいだけではない赤みで真っ赤である。いや、ドワーフの鼻は元から赤かったかもしれない。
ちなみに、便宜上ドワーフと呼んでいるが、正確にはドワーフという種族はキャラクタークリエイトの選択肢にはない。
獣人の中にドワーフによく似た種族がいるのでドワーフと呼んでいるだけである。正式な名前はシミズとかヒミズとかだった気がする。
「筋肉はポージングに夢中で逃げも避けもしないから・・・・・」
話題に出された筋肉さんは今も筋肉ポーズをきめている。
今度のは胸筋を魅せつけるポーズなようだ。いや、もしかしたら三角筋を魅せるポーズかもしれない。
なんかもう兎に角、肩の盛り上がりが凄い。
「最近、とうとうスキルまで取得したし・・・・・」
筋肉さんは敵の攻撃がきてもポージングをしたまま動かな過ぎて、ポージング中のみ防御力が上がるスキルを獲得したらしい。
その名も「筋肉の像」。現在は木の像しか選べず、防御力の上昇も微々たるものなのだそう。
戦闘中にお酒がぶ飲みするらしいウォトカさんより先にスキルを手に入れるって、どんだけ~。
「ポージングに夢中な筋肉が死なないように見といてやって」
「・・・・了解です」
私の了承を受けてなのか、別の理由があるのか筋肉さんのポーズが変わる。これは前にも見た上腕二頭筋のポーズだ。
「筋肉・・・ルイーゼは筋肉語を習得してないから伝わらないぞ」
おもちゃさん、筋肉語って何?もしかして、筋肉さんのポーズって何かの言語なの?
え、ジェスチャー?言葉だと言うのなら手話の方か?
「筋肉からよろしくって」
「え?あ、ハイ。よろしくお願いしますデス」
もしかしなくても、おもちゃさんは筋肉語を履修済みなのか。周囲の様子からしておもちゃさん以外のパーティメンバーも履修済みっぽい。
どこで学習できるんだろう筋肉語。ウィーキャンで習えるかな。
「俺も回復はルイーゼが良いな~」
「リーダーさんの方が回復上手いと思うけど・・・・」
お酒ポーションを飲むことに命かけてそうなウォトカさんとポージングに全霊を費やす筋肉さんを含むパーティの回復役をこなしていたリーダーさんの回復スキルは鍛え方が違うと思う。
私のアイギス専用回復スキルでは回復量も回復のタイミングの見極めも不十分な気がする。
「問題なのは上手さじゃないんだよ」
「それな」
リーダーさんの回復と私の回復には何か明確な違いがあるらしい。
私は違いの分からない女だけれど、お父さんもお2さんも、皆違いの分かる男なようだ。
おもちゃさんに追従する声があちこちから上がる。筋肉さんは無言でマッスルポーズを決めただけなので賛同しているのか分からないけれど、たぶんそうだろう。
「えー?なに?俺の回復じゃ不満?」
リーダーさんが張り扇で賛同した人たちを順々に指し示していく。
「せやかて、回復の度に爆発音が響きよるし」
「ちゃんとポーション飲んでるのにハリセンでどつかれるし」
一人目に指名されたお2さんは回復時の張り扇の音が不満な様子。
私も耳元で回復の度に張り扇の爆裂音がするのは嫌だな。お2さんの言い分はよく分かる。
次に示されたウォトカさんはポーション飲んで回復しているのに張り扇で追加の回復をされるのが嫌らしい。
うーん、でも、ウォトカさんの場合はポーション(ほぼお酒)による回復がダメージ量に追いつかなくてリーダーさんのフォローを受けてるみたいだしな。
それにたぶん、張り扇で叩いてるのは戦闘中の飲酒に対するツッコミの意味もありそうだし。
「つーか、ハリセンで叩かれて回復するのが腑に落ちない」
おもちゃさんの言葉に一同無言でうなずいた。
どうやら、張り扇で回復するって意味が分からないと思ったのは私だけではなかったようだ。
皆、張り扇で回復する現象に首をかしげながらも、他に選択肢もないので黙って享受していたらしい。




