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剣抜弩張


さて、いつまでも村の外観に見とれて、村の外で待機するのも危ない。村の中に入らなければ安全地帯に入ったことにならず、モンスターの襲撃を受けてしまう。


ほら、そう言っている間にも近くでモンスターが発生した。接敵される前に避難しないと。



「!?ヤバい!ルイーゼ!早く村に逃げ込むぞっ!!」


出現したモンスターに気が付いたおもちゃさんが緊迫した様子で叫ぶ。そんなに危険なモンスターなのだろうかと、視線を向けてすぐさま後悔した。



「なん、何あれ・・・・?」


どでかい虫が三匹、ものすごく不愉快な音を立てて飛んでいる。


まだ春だと言うのになんて気の早い奴らだ。真夏の夜に睡眠妨害を繰り返す、あの音が耳にこびりついてきてひどく嫌な気持ちになる。



「ズィッヒェルヴィーゼルだ!」


ズィ・・・何?また、ここの運営はやたらと長い名前をっ。



「でっかい蚊の三連星だ!三匹目は謎の薬を塗ってくるぞ!」


「なにそれ痒い!なんの嫌がらせ!?」



お、音がっ、すっごく不快な音が聞こえる。大きな虫と言うだけでも十分、嫌悪感を与えてくるが、それが蚊だと余計嫌な気分になる。


しかも何故か三匹もいる。あまつさえ三匹目は謎の薬を塗ってくるらしい。


言われてみれば三匹の蚊はそれぞれ手に持つものが異なる。真ん中の奴は扇のようなものを持ち、左側の奴は刀らしきものを、右の奴は薬壺と見られるものを持っている。


持っているというか、蚊の前足部分がそれらのものと合体しているようだ。



戦いたくない。いや、しかし、存在が不愉快なのでプチっとしたい気持ちもある。


奴らの羽音を聞くと、私の中に殺意が沸き起こるのだ。でも、大きな蚊とか近づきたくないなぁ。



やっぱり逃げよう。近づきたくない。側にいるだけ、視界に入れるだけで痒みの幻痛に襲われそうだ。村に向かって忍び足で進むおもちゃさんの後に続く。



「なんで忍び足?」


つられて同じように抜き足差し足でそっと村に向かっているけれど、走った方が早いし奴らを撒くには適しているのではないだろうか。



「ゆっくり動いた方があいつらに見つかりにくいんだよ。走ると高確率でたかられる」


あの三匹にわらわらと寄ってこられる様を想像してぞっとした。


そう言えば、蚊って二酸化炭素によって来るとか、汗のにおいが好きとか、熱に反応するとか聞いたことがあるような。


運動した後の方が蚊に刺されやすいし。下手に走るよりも落ち着いて行動した方が安全なのかもしれない。



後ろの様子を窺えば、先程出現した痒みの伝達者たちは空中にとどまったまま、何処を見ているのか分からない瞳を此方に向け動かない。


不気味だ。こうしってじっくりバランスボール程の大きさとなった蚊を眺めてみると、蚊って気持ち悪いなぁ。


虫は大きくすると大部分が気持ち悪いと思うけれど、蚊もご多分に漏れずに気持ち悪い。なんか無駄に手足が長いのが得も言われぬ気持ち悪さを引き立たせている。



「?」


というか、気のせいじゃなければ、少しずつ蚊が此方に近づいてきているような。


空中でホバリング中の蚊との距離がさっきよりも近づいている気がする。ここから見る限り、奴らは動いていないように見えるのにどうして。



「ルイーゼ!立ち止まってても狙われるぞ!」


おもちゃさんも言葉にいつの間にか止まってしまっていた足を動かす。けれど、背後が気になって振り返って確認してしまう。



「!」


確実に先程よりも近づいている。視界におさめた様子では動いているように見えないのに、何故か距離だけが近くなっている。


前を向く。数歩進んで、後ろを振り返る。奴らはさらに近くに寄ってきている。


空中で止まったまま動いているようには見えない。どういう原理かは分からないが、私たちはすでに奴らの索敵に引っ掛かり、距離を詰められている最中らしい。


すぐには襲い掛からずに、観察に徹しているのはそれだけ奴らの警戒心が強いと言うことだろうか。


こちらの様子を窺う蚊に負けずと、きつく睨み返す。


まさかゲームの中で蚊を相手にだるまさんが転んだをするはめになるとは思わなかった。


後ろを向いたまま進めば、舗装されているわけではない地面だ、枯れ枝や石に足を取られて転んでしまうだろう。


しかし、奴らから目をそらせばあっという間に距離を詰められ、血を吸われ、謎の薬を塗りたくられてしまうだろう。緊迫した睨み合いが続く。



睨み合いを続ける中で気が付いたが、視界に捉えているにもかかわらず距離を詰められたのは、瞬きの間に相手が動いていたからだ。


私が目を閉じる一瞬で移動し、私が目を開けている間は空中で静止している。だから奴らは止まっているように見えるのに、こちらに近づいているのだ。




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