冠・級・登
「あたっ」
収縮を繰り返していた機械だったような気がするものが、突如、動きを止め、何かをこちらに吐き出してきた。
気が付けば機械()は元の形に戻り、鎮座している。
額を打ったそれはお姉さんによって抜け目無く受け止められていた。
「嚙まないって言ったのに・・・・・」
カウンターに泣き崩れる私の腕から抜け出したバロンが頭を前足で撫でてくる。
肉球なでなでは嬉しいけれど、先程の裏切り行為、忘れはすまい。
「危険はありませんよ。…登録は完了いたしました。こちらがギルド証です」
お姉さんが苦笑いのままカードを差し出してくる。
黒地に銀色の文字で名前や職業が書かれている。光に当たると虹色に輝き、ブラックオパールを思わせて宝石のように美しい。
「ギルド証の情報は名前以外を隠すことができます。非表示にしたい場合はカードに触れて念じてください」
言われた通りに念じたら書かれていた文字が減る。カードには私とバロンの名前のみが残っている。
「なお、従魔の名前も隠すことはできません」
「…了解です」
「ギルドでは冒険者の方を四つのランクに分けています。今は一番下のランク、無印ですが、依頼を重ねランクが上がると、ギルド証の背景に王冠が増えます」
カードを見る。シンプルに名前のみが載っている。背後にはもちろん何も描かれていない。
「ランクは、無印、冠持ち、二重冠、三重冠と上がっていきます」
冠は分かるけれど、二重冠とか三重冠は聞いたことがない。見せてもらった見本のイラストには冠が上に一重、二重と重なった印が描かれている。二重冠と三重冠の区別が付きづらくないのかな。
「ランクを上げる方法は一つ。依頼を受けてポイントを貯めることです」
お姉さんは右手を挙げて酒場側とは反対の壁を示す。壁には木の板が打ち付けられており、そこに画鋲で乱雑に紙が貼られている。これはお約束っぽい。
「依頼はあちらの依頼ボードから選択できます。受注する際には紙をはがし、受付にお持ちください」
すごくぽくて安心する。先程の機械()の二の舞にはならなさそう?
「また、依頼の中には維持依頼と呼ばれるものが存在します。維持依頼には町の治安維持のためのモンスター討伐や常時需要のある品物の買取が含まれます。
この維持依頼は事前に受注する必要がなく、受付に規定のドロップ品などを提示いただければ依頼完了となります」
これも有りがちだな。
「維持依頼以外の依頼には期限があり、これを過ぎると失敗扱いになります。依頼に失敗すると罰金やポイントの減点などの罰則が発生するのでご注意ください」
うんうん。いい感じ。例のブツを思わせる気配はないぞ。
しかし確認は必要だ。
「依頼に関する手続きでさっきの機械()は使いますか?」
これは今後に関わる重要な質問だ。忘れずに、しっかりと聞いておかなければならない。奴に再びまみえる可能性があるのか、否か。
「あれは登録時のみに使用する機械なので、依頼の受付等では使いませんよ」
苦笑するお姉さん。・・・だって、怖かったんだもん。
突然のホラーに私の蚤の心臓がはるか彼方にフライアウェイして、行方不明になるところだったのである。ホラーとか夜寝られなくなるから絶対見ないし、本当に吃驚したのだ。
「依頼を受け、ポイントを貯めたら、昇級試験を受けられます。試験に合格できればランクアップ、不合格でも何度も挑戦できます」
聞くところによると、昇級試験のために必要なポイントは初めの冠を得る場合でも結構多いみたいだ。試験に挑戦するのはまだ先の話だろう。
ランクアップのために必要なポイントも冠が増えるごとに多くなるようだし、三重冠なんて視認も難しいほど遠い先ではないだろうか。
「説明は以上です。ギルドのことでまた何か分からないことがあれば気軽にお聞きくださいませ。最後に、私は当ギルドの受付係、アリアと申します。よろしければお見知りおきください」
あ、これは、ご丁寧にありがとうございます。アリアさんですね。次にギルドに来たときにもアリアさんの受付に並びましょう。ルイーゼまっしぐらで向かいます。