謀殺。
あぁ...今、死ぬ。
痛みなんて感じる暇もなく僕は死ぬ。
今思えば、何故あんなことをしたのだろう。
何故、通学路で倒れてる話したこともないクラスメイトに手を差し伸べたのか?ただでさえ周囲の人間に白い目で見られてる僕が...。
本当は薄々わかっている。
持ち合わせてはいるが普段は、全く出し得ない正義感とやらに身を委ねるのが気持ちがいいのを知っていたからだろう。
同情という名の優越感を味わいたかったのだろうか。それとも長嶺を助けることで学校での優位性が上がるとでも思ったのだろうか。
どっちにしろ最底辺の思考に変わりない。
こんな自分が心底嫌になる。死んでしまえ。死んで当然だ。
それにしても死ぬ間際まで自己嫌悪なんてのは本当に僕らしい。捻くれているなんて言葉では生緩い。
腐ってるというべきだ。
刹那、刺すように銃声が頭に響いた。
誰かが呼んでいるーーーーーーーーーーーー
懐かしい感じの声で...。
誰だろう。もう誰でもいいや。
それにしても頭を撃ち抜かれてもこんなに思考を張り巡らすことが出来るなんて、、、
いや違う。
『”止まってるんだ”』
僕がそう呟くと同時に時間は動きだし、脳の前頭葉で停止していた弾丸は勢いよく後頭葉を抉りながら廊下の壁に当たりポトリと落ちた。
頭からつま先までの神経伝達は止まり力が入らず腕をだらんと垂らしながら死後硬直により全身の筋肉がビクビクと波打つーーーー
幾ばくか経ったのち少女達は現れた。
『全く、私の忠告は誰にも届かないようね。もう少し念を押しておくべきだった。』
『そんなことないっス!!みうみ先輩の忠告を無視した”このアホ”が100悪いですよ!菜々が保証します!!』
『そうかしら、言われてみればそれもそうね。』
『ですです!!みうみ先輩が負い目を感じる必要なんて全くないっス!!早く帰ってスイパラいきたいッス!!』
『そうね、でもこちら側に引き込んだ責任は私にあるわ。私があの場所で倒れてなかったら、彼は撃たれてないもの』
『流石はみうみ先輩!情深いッス!』
『それにしても”儀”を直接見られたわけでもないのに、常盤達は何に怯えてるのかしら』
『やっぱり委員会の最近の動向がおかしいからっスよ...ハッ!!!!みうみ先輩、もしかしてそいつに常盤から奪った”弾”使うつもりなんスか?』
『えぇ、惜しくないと言えば嘘になるけど巻き込んでしまった責任は私にある...。こんな目にあった以上、彼が今後こちら側に接触してくることもないでしょう』
『自分は反対ッス!こんな奴、一人一人助けてたらキリないっスよ!常盤が学校の生徒を巻き込まない保証なんて無いんスよ!』
頬を真っ赤にして主観ではなく客観的に意見を述べる菜々に対して、長嶺は少し悲しげな顔で彼女の頬を指でなぞると華奢な両の手の平で彼女の頬を優しく挟んだ。
『ムム〜!ななな、なんスか先輩!! どど、どうしたんすか、、、』
ただでさえ赤くなっていた頬が、長嶺の掌のせいかもっと赤くなっていた。
『お願いよ、菜々。必ず貴方と勝ち残るからここだけは私のワガママを通して頂戴』
『わかりました...。でも今回だけ、、今回だけっス、、!』
『ありがとう』
少女の腕が青く眩い光に包まれると、長嶺みうみの小さくか細い手には不相応な銃が握られていた。
そして銃口は彼に向けられる。
『西黒日和』少女達の秘密の一端に触れ
忠告を受けたにも関わらずそれらを無視し
普通の日常を謳歌しようとし何者かに謀殺された少年。
黒板を叩くチョークの音が教室を包み込む穏やかな授業中の風景を遮るように、少女は引き金を引いた。
銃声が響き渡ると同時に、弾丸は一直線の線を描いて真っ直ぐに、またしても西黒日和を貫いた。