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その花を咲かせてはならない。  作者: 卵かけご飯
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別れ

四月五日。県立葛ヶ崎高校入学式。春の温もりが毛布のように気持ちいい午前9時。湯水のように湧き出てくる眠気に抗うべく眠い目を擦りながら、私はステージ中央から聞こえてくる校長の話を聞いていた。内容はいたって普通のもの。完全に寝入ってしまった中学の卒業式でも同じようなことを言われたなあという感想が出てくるくらい。新入生や保護者、来賓への祝辞に始まり、学校の指導・教育方針やら将来の人材像だとかそんなどこの高校でも言っていそうな内容がズラズラと並べられ、来賓のお偉いさんたちが満足そうに頷いている。なるほど。これが自称進学校というやつか。なんて思いながら、時間が経つのをのんびり待っていた。時計を確認しようと思い前を見ると、前には楽器を抱えた生徒が何人も並んでいるのが見えた。どうやらプログラム七番「吹奏楽部による演奏」が始まるらしい。これが終われば後は閉会の言葉を聞き流すだけ。やっと解放されるようだ。

指揮者の腕が高く上がり、演奏が始まる。これまで殆ど音楽に触れてこなかった私の耳に音の良し悪しは全く分からないが、式の厳粛な雰囲気と相まってとても綺麗だなと思った。数分前より時間の進みが早く感じる。このまま何事もなく終わるんだろう。そんなことを考えていると、二曲目に入って少し経った時、ふと右隣から声を掛けられた。


「ねえ。ちょっといい?」

「ん、私?」

「うん。そう。あなた。今少しいいかしら。」


そう言われ振り向くと、そこには美少女があった。綺麗でまっすぐな黒髪を腰まで伸ばしたいわゆる黒髪ロング。ハリのある純白の肌はまるで絹のよう。体育館の高い窓から差す柔らかな春の日差しに照らされ、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。唐突なラブコメイベントに驚きを隠せず、動揺で何も返せずにいると、その子は不思議そうな目で私を見ながら首を傾げた。仕草一つ一つが本当に綺麗。まるで人形のよう。

私は声を絞り出した。


「えっと、うん。大丈夫だよ。」


そう答えると、その美少女は安心したのか、頬を緩め


「ねぇあなた、私の恋人にならない?」


私の中に爆弾を放り込んだのだった。曲は最後のサビに突入し、体育館全体が演奏に心を掴まれた。でも私の心を掴んでいたのは、彼女の微笑みだった。









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