夜空へようこそ
ファンタジーな風景を...想像し....どことなくノスタルジーな気分になりつつ書きました.....嗚呼....
夜空へようこそ
列車は段々と上へ上へ、空に向かって高度を上げていく。
「線路はどうなってんだ?」
そう言い、ヨハルは窓から身を乗り出し、下を見やる。
「...!これ、水か?」
そう。この列車はなんと 水で出来た線路を走っているのだ!
しかし、ただの水ではない。スパンコールが散らばっているように、キラキラと小さな煌めきが見える。
「(魔力を感じる.... しかし魔法使いのものじゃない。そもそも、生物が作り出したものじゃないな、コレ。ということは、列車が作り出してるのか?)」
「お飲み物はいかがですか〜?」
「!」
背後の声に振り向くと、そこには優しく朗らかな笑みを浮かべる女性がいた。この列車の販売員だろう。
「今不必要でしたら、必要になった際、私共にお声をお掛けしてください。すぐにお出し致します。ちなみにお代は頂いておりません、完全に無料となっております。いかが致しましょうか?」
「是非頂きたいな。どういうものがあるんです?」
そういうと、相手は手際良くメニューを差し出した。所作の一つ一つが美しい。
「夕焼けを閉じ込めたトワイライン、夜空のカクテル トゥイン・リリー、日差し差し込む アニーソレーユ...こちらには鎮静効果がございます。心をゆったりと落ち着かせたい時には最適です。いかがなさいましょう?」
「トゥイン・リリーで。今の状況にピッタリだ。」
「承りました。それでは少々お待ちください。」
そう言って丁寧に一礼をし、彼女は下がっていった。
「(“夜空”のカクテル...どういうものだろうか...。トゥイン・“リリー”か...ふふ。)」
そう。彼、ヨハル・“リリー” がこのカクテルを選んだのには、そんな理由もあった。
「お待たせいたしました、トゥイン・リリーでございます。それでは、ごゆっくり この列車での旅をお楽しみください。失礼いたします。」
運ばれてきたのは、間違いなく“夜空”のカクテル。美しい満点の星空が、カクテル・グラスの中に広がっていた。
「見たこともないぐらい綺麗だ....これを飲むのか....」
少し勿体無いな。そう呟いた彼だが、元々好奇心の旺盛な彼が、“もう少し眺める” なんてこと、できるはずがなかった。
最初ということもあり、ほんの少しだけ、口に含んだ。そして、静かに味わい、名残惜しく喉へ流し込む。
その味は、今まで口にしてきたどんな物よりずっと、それらが全く敵わないほどに、別格だった。
しかし初めての味だ。どう例えればいいのか、そもそも例えられるものがあるのか。彼は自分の中で最も近しいものを探したが、頭の隅々まで探しても、まるで見つからなかった。
しかし言葉で例えるとするなら、少し候補はある。
「(なんというか、舌で綺麗を感じる.....って、我ながらおかしいな。でもあながち間違ってもいないと思うんだよなぁ。
...口当たりが本当に涼やかだ。飲み込めば、身体全体に爽快感がスッと走る。嫌な感じは全くしない。心地の良い涼しさだ。)」
それでもやっぱりちょっと違うか... と、彼はなんとか表現しようと躍起になっていた。
しかし丁度その頃、夜空にはいくつもの流れ星が、上から下へと休みなく流れ続けていた。他の乗客が落ち着いた心持ちでそれを眺める中、彼は未だに、カクテルと 文字通り向き合っていた。
「皆様、窓の外をご覧ください。今宵もまた、無数の流れ星たちが、私達を夜空へ歓迎してくれていますーーー。」
車掌のアナウンスも虚しく、ヨハルは未だに、窓の外の素晴らしい光景に気付けずにいた。
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