車輪の正体
3部目です!コツコツ連載大変だけど楽しー!
「お前はいつか厄を呼ぶ」
あの大人は間違っていなかった
車輪の正体
車輪の音がする。それに気付くのに、さほど時間はかからなかった。ゴトゴトと音を立てて、時たま金属が軋むような音を響かせ、それはこちらへと近づいてきた。
「(さて何が出てくるか...。)」
普通であれば焦るような状況に置かれていても、ヨハルはまるで動揺を見せることなく、むしろこの状況に少し高揚していた。
「(このまま出迎えてやるのもいいが、後をついていけば、もしかしたら、街ではないどこかにつくかも知れない... この感じからして搭乗は不可能、であれば...。)」
ヨハルは茂みに身を隠した。もし見つかって攻撃されたとしても、彼に敵う相手など何処を探してもいない。呪われたように強い彼に、敵う相手などいないのだ。
「(さてさて、お姿拝見といくか...。)」
ガタガタと音が近くなる。そしてやっと頭角を現したそれは....
オリエンタルな焦げ茶の小さな木造車体の先頭を行くのは、鮮やかな緑色のたてがみを携えた、眼球のない乳白色の馬。 やはり馬車だったかと、ヨハルは操縦者席を見た。老いた操縦者は首を深くもたげ、力が抜け切ったような腕に手綱を握っていた。顔は死者のように青白く、深く被った帽子のせいで顔はよく見えなかったが、とにかくこの森に似合わないほど、暗く沈んだ雰囲気であった。
見たところ、一応乗れそうではある。ヨハルは操縦者に声をかけた。老人相手のため、少し声を張って。
「おーい爺さーん!乗ることってできるかなー!?」
馬車の動きが止まる。途端にその場に少し緊張感が走った。操縦席から、本当に微かな、しゃがれた声がした。
「どうぞ...後ろにお乗りください...街に向かいますがよろしいですか....。」
「ああ。ありがとうな...っと、悪ィ、手持ちはあるんだが、ここの通貨じゃないかもしれねぇ。」
「お気になさらず...料金は頂いておりませんので...。」
その言葉に驚きつつも、ヨハルは馬車に乗った。
「(料金を貰ってないなら、給料はどうなってんだ?まぁいいか、街に行けば何かしら分かるだろ。)」
屋根と囲いが付いているのみの、荷台という表現がふさわしいほどの古びた馬車の後ろで、手すりに寄りかかり、ヨハルはただ変化のない風景を見ていた。
「(...歩いた方がまだよかったか...)」
静寂に立ち会うと、やはり脳味噌が要らない仕事をするようで、ヨハルは少し眉間に皺を寄せた。
小さい頃、どうしても周りに合わせられなかった。才能に恵まれ、大勢から「天才」、「神の子」と呼ばれた一方、一部からは憎悪を向けられ、「悪魔の子」、「いつか厄を呼ぶ」と散々に言われ、そのせいか、同い年の魔法使いは皆彼に近寄ろうとしなかった。
それでも、いつか仲良くなれるはず.....
そんな期待が報われる日は来なかった。
仲間は自らの血に塗れ、ヨハルは虐殺者達の血を溺れるほど浴びた。
おびただしいほどの死屍累々の中で、幼い彼は自嘲気味に嗤う。
9歳で50万人もの人間を殺した彼は、間違いなく「天才」であり、
「神」の子であり、
そして、
「俺のせいだ....」
厄を呼んだのだろう。
ご閲覧ありがとうございました!!気になってくださった方はツイッターもぜひぜひ!といってもほとんど呟いてはいませんが...(^_^;)