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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
徳川家康 編
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第09話 防衛塔とジパングの「科学」

 一同が荒川の橋渡しに到着すると、正信が気を引き締めるように説明をする。


「さあ、ここを渡ればいよいよジパングそのものに着くぞ、気構えは良いか?」

「むう、何とも心が沸き立つのう」

「全くじゃ、ここまででも散々驚かせられたのじゃ。

いよいよあの中に入っていくかと思うと、気がそぞろになるのも無理はないわい」

「ここの橋渡し料は大人も子供も十財、馬や荷車は一台につき百財じゃ」

「ここは大人も子供も一緒なのじゃな」

「ああ、ここまで来れば大人も子供も変わらぬからな」

「確かにな」

「あそこに見えるのがジパングの街壁じゃ」


正信の指差す方向には長く横に伸びている街壁が見える。


「ふ~む、確かに遠めにみても大きなものよのう」

「あの中がジパングその物という訳じゃ」

「うむ」

「では、行くか」


正信が歩き始めると三人がそれに続く。

一同が橋を渡りながら会話を続ける。


「しかし、この橋は大きいな」

「うむ、大川の川幅は大体一丁半(約160m)前後だが、荒川は九丁(約1km)以上の幅があるからな。反対側にある江戸川も同じような物だ」

「この橋が攻める時の要衝になるのは間違いないな」

「しかし、こう橋の幅が広ければ、攻める方も攻めやすいではないか」

「いや、ここに防衛線を張られれば、ちとやっかいじゃぞ」

「さよう、しかもこの橋には仕掛けがしてあって、戦の場合は橋をはずす事が出来ると聞いておる」


その正信の説明に一同が仰天する。


「なんと!このような大きな橋を動かすというのか?どうやって?」

「それはわしにもわからぬ。

 しかし聞く所によると、昔ここを攻めた者がおり、その時に橋が動いて外れた事があると聞いている」

「うむ、それも真偽を確かめる一つじゃな」

「さようじゃ」


しばらく歩いて橋を渡り終える頃に、橋の左右に一本ずつ、それぞれ高さ30m、太さ5mほどで、先が尖った巨大な水晶の結晶のような形の滑らかな白い塔が見える。


「あれは一体何なのじゃ?」


勝成の質問に正信が答える。


「あれは左右一対の「防衛塔」と言って、ジパングを守護する矢倉らしい。

ここの反対側の江戸川の端と、もう二箇所、北の方の荒川と江戸川の合流地点と港の方にも一対ずつあるらしい」

「つまりは東西南北に在るという訳か」

「さようでござる。

 そのそれぞれの場所で、ジパングを守る物と聞いている」

「守る?四方を守るとは、それはいわゆる守護霊的な物なのか?

朱雀や玄武といった結界のような・・・?」

「いや、ジパングは、そういった神仏宗教や呪いの類は一切信じておらぬ。

仏教やキリスト教なども、一応教えてはいるようだが、あくまで学問として教えているのであって、信じておる訳ではない。

事実、ジパングには仏教徒やキリシタンに限らず、神や仏の類を信じておる者は、まずいない」

「何と?神も仏も信じぬというのか?」

「然り、ジパングの民にあるのは理に適った考え方のみで、神仏に頼ったりはせぬ。

もちろん狐狸妖怪や陰陽呪術の類も全く相手にせぬ」

「呪術の類もか?では相手が呪い殺すと言ってきたらどうするのじゃ?」

「そんな事を言って来る者がおったら、ジパングの者に笑われて終わりじゃ。

全く相手にされぬであろうな」

「むむむ・・・」

「これは大事な事だから言っておくが、確かにこれから行くジパングの中では摩訶不思議で妖術としか思えない物にも出会うであろう。

しかしそれはみな自然の摂理や、算術によって生み出された物であって、決して怪しげな妖術や神の力で作られた物ではない。

彼らはその力を「科学」と言っている」

「カガク・・・?」


その初めて聞く不思議な言葉に3人はキョトンとなる。


「そうじゃ、例えば勝重、お主は自分で種子島を作る事が出来るか?」


種子島とは火縄銃の別称だった。

それを聞いた勝重は、慌てふためいて答える。


「火縄銃をか?無理じゃな」

「正成、お主は今着物を着ておる。

 それを綿や蚕から自分で作る事が出来るか?」

「無茶を言うな!」

「勝成、お主は自分の刀をその辺の鉄から作れるか?」

「もちろん、そんな事は出来ん」

「そう、それらはみな作り方を知らなければ出来ぬ。

例えば火縄銃などは何も知らぬ物が見たら、妖術の道具としてしか見えなくとも、不思議はなかろう?」

「確かにな」

「我らの着物とて、その存在を知らない、何も着てない人間が、いきなり着物を見れば、一体どうやって作ったかと驚くであろう?」

「そうじゃなぁ」

「しかし我等はそれが妖術ではない事を知っている。

そう言った物、鉛の玉を火薬で飛ばす事、糸を紡ぐ技術、それを織って着物にする知識、それらは全て「科学」なのじゃ。

そしてジパングはその科学が我らとは比較にならぬほど進んでいると考えればよい。

物によっては、それこそ神の御業としか思えないほどにな。

その結果、常識ではありえないような事が、ごく日常的な事として目に映るので驚くのじゃ」

「なるほどのう」


正信の説明に一同は感心するが、勝成が話を元に戻す。


「では、あれはどうやってジパングを守るのだ?

それもカガクとやらなのであろう?」

「わしもよくは知らないが、あの上の部分から何かが飛び出して敵を攻撃するらしい」


そう言って正信は、尖塔の上の部分を指差す。


「ふむ、つまりは高所から鉄砲や矢を射るという事か?」

「いや、わしが色々聞いた所によると、どうも「光の矢」という物を放つらしい」

「光の矢?なんじゃそれは?」

「わしも不思議に思って調べてみた。

わしが調べた限りでは、ジパングの古い文献によれば、大昔、それこそまだジパングが作られてすぐの頃、その頃ジパングは駿河の国辺りにあったらしいが、時の朝廷に攻められた事があったらしい。

そしてその時にジパング創始者の「天ノ川未来あまのがわみらい」と、その妻が迎撃に当たったのだが、その妻が「光の矢」という物で攻撃して相手を撤退させたらしい。

その「光の矢」は数里先の敵も狙い過たず打ち抜き、あっと言う間に数千の敵を撃退したそうじゃ」


正信の説明に勝成と勝重が驚いて尋ねる。


「光の矢じゃと?そのような武器がジパングにはあるのか?」

「それは一体いつ頃の話なのじゃ?」

「さよう、千年以上前と聞いている。

そしてその創始者である「天ノ川未来」と、その妻の「天ノ川ミオ」はジパングでは神のごとくな扱いをされている伝説上の人物じゃ。

さしずめ、日本で言えばイザナギ、イザナミじゃな」


その正信の説明に勝成が安心したように言葉を漏らす。


「なんじゃ、神話か、おとぎ話の類か」


他の者も失笑するが、正信は真顔で答える。


「確かにそうかも知れぬが、そうとも言い切れぬ部分があるのが、ジパングなのじゃ」

「どちらにしてもまだ一度も使った事がないでは、調べようがないではないか?」

「防衛塔というのも眉唾ものじゃのう」

「いや、これが一度も使われた事がないのは、使う必要が今まで全くなかったからだと聞いている。

つまりはこれを使うまでも無かったと。

どうもこれを使う時というのは、余程の時らしい。

何しろあの太閤殿が三十万の兵で、ここへ押し寄せた時にすら使わずに終わってしまったらしいからの」

「ふむ・・」


三十万の大軍ですら使う必要のなかった防衛設備、そしてそれが実際に使われるのは一体いつ、どのような時なのかと考えると、その話の不気味さに一同も押し黙る。

もちろん四人が眺めていても、防衛塔は沈黙し、微動だにしない。

その恐るべき威力が発揮されるのはまだ二百年以上、後の話だった。


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