第29話 えりかの言葉
一方、天ノ川たちと別れて宿に向かうえりかたちだったが、その途中で小太郎が彦一に問いかける。
「なあ、おい、そういえばあの人のくれた刀は、どういうのなんだ?」
「さあ、俺もまだ見ていないから・・・」
「ちょっと見てみろよ、結構いい刀かもしれないぜ」
「そうそう、あの兄さん、結構身なりは良かったし、なんと言っても一等市民なんだから、意外に凄い刀をくれたかもよ?」
ちゃかす小太郎とよしのに彦一も止まって刀を取り出す。
「うん、そうだな」
そう言って彦一は自分の持っていた刀を抜いてみる。
そしてその刀身を見た瞬間、そこにいた者たちは全員固まってしまっていた。
「なっ!」
そこには水晶のようにキラキラと透明な刀身が燦然と輝いていた。
「これは・・・アレナック・・・?」
ガクガクと震えるような声で彦一が話す。
「まさか・・・」
「いや、間違いない、そうだよ」
「比べてみればわかる。
ちょうど今本物を持っている人間がいるんだ、おい西明寺」
「うん」
小太郎が促すと、えりかが答えて自分の懐から刀を取り出す。
えりかが刀身を抜くと、それは彦一の持っている刀同様に光り輝く。
その輝きは大小こそあれど、全く同じ輝きであった。
二つを比べた六人がうなずく。
「間違いない・・・」
「ああ、間違いないな・・・」
「うん、これやっぱりアレナック刀だよ」
「せやな」
「そうですね」
「・・・」・
しばしそれに無言で見とれていた彦一だったが、ハッと我に帰ると、誰に言うとでもなくつぶやく。
「俺、返してくる」
「えっ?」
その彦一の言葉に一同が耳を疑う。
「こんな立派な刀をもらう訳にはいかない、あの人を探して返してくる」
「それは・・・」
「う・・・ん」
確かに彦一の言う事はみんなもわかる。
こんな伝説級の刀を、いくら祖父からもらった刀の代わりとはいえ、ひょいともらうのは確かに気が引ける気持ちだ。
しかし、今にも天ノ川たちを探しにいかんとしそうな彦一にえりかがポツリと言う。
「もらっておきなよ」
「え?」
「私もさ、父さんからこの懐剣をもらった時に同じ事を言ったんだ。
とてもこんな物もらえないってね」
「西明寺・・・」
「だけど父さんは言っていた。
気は心だってね。
あの人、自称天ノ川さんだって、あんたに間違えてそれをくれた訳じゃない。
アレナックの刀だってわかってくれたんだ。
これからその刀に恥ずかしくない人間になればいいんじゃないかな?
その前渡しだと思ってさ」
「・・・そうか」
「それにさ、父さんが言っていた。
アレナック刀を持つには資格がいるんだってさ、私はそれを持っているんだって、
あんたも持っていると思うよ」
「俺が?」
「うん、あんた、最初それを持って私が説明をした時に切れすぎて怖いって、
言ったでしょ?」
「ああ、そんな事を言ったかな」
「父さんが言うにはアレナックを持つ人間はその怖さを知ってなきゃいけないんだって。
さもないと魔性に取り込まれるって・・・」
そのえりかの言葉に彦一がハッとする。
「『満月の水晶剣事件』か!」
その言葉にえりかがこっくりとうなずき、小太郎と雅楽衛門もうなずく。
「満月の水晶剣事件?何やのそれ?」
よしのの質問に雅楽衛門が答える。
「アレナック刀というのは知っての通り、統一剣術大会以外では手に入らない物です。
しかし欲しがる人間は山のようにいる。
そんな一人がある優勝者の持っていたアレナック刀を盗み出したんです。
私たちが生まれるずいぶん前ですけどね。
それでその盗み出した人間が、満月の夜毎に辻斬りを始めたんです。
何人か犠牲者が出た後で犯人は捕まり、刀も所有者に戻ったのですが、その事件が「満月の水晶剣事件」です。
アレナックはその見た目から別名「水晶剣」とも言いますからね」
「なるほど」
雅楽衛門の説明によしのが納得すると、小太郎が続きを説明する。
「だが、その犯人の捕縛後の言葉が有名になった。
『自分が悪いのではない。水晶剣は魔性の剣だ!この剣を持てば誰でも人間を切りたくなる』とな。
つまり辻斬りを刀のせいにした訳だ。
もちろんそんなたわ言は誰も聞かない。
犯人はそのまま市中引き回しの上、獄門さらし首だ。
そもそもアレナック所有者で辻斬りになった人など誰もいないんだからな。
しかし、その言葉自体は有名になり、事件は『満月の水晶剣事件』として名が残った」
「当時は江戸で瓦版まで出て、勝手に様々な尾鰭までついたそうですよ」
「ああ、水晶剣を持つと人を切らずにはいられなくなる、とか、所有者は呪われる、とか剣を持つと性格が変わる・・・とかな」
「ま、しかしそんな物はもちろんみんな勝手に面白可笑しく作られた話だ」
「うん、でもね、魔性の剣っていうのは本当だと思う。
だって、この剣って本当に何でも切れちゃうの。
だから私もこれで何を切ったらどんな風に切れるんだろうって思うことあるもの」
「なるほどな、そしてその考えの行き着く最後が・・・」
「人間を切ってみたくなる・・・か」
えりかの話に彦一と小太郎がしみじみと答える。
「そう、だからね、父さんがこれを持って怖いという人間じゃないと扱えない、
扱っちゃいけないって言っていた。
これを持って、怖いと思う人間だったら、まず安心だって言っていたよ。
私も始めてアレナックでりんごを切った時に怖いと言ったし、彦一も最初に枝を切った時に怖いと言った。
だから彦一は大丈夫だよ」
えりかの説明に小太郎とみゆきが感心する。
「なるほどな、確かに親父さんの言う事はもっともだ」
「さすが統一剣術大会優勝者の言う事は違うね」
二人の言葉にうなずくとえりかが先を進める。
「だからさ、彦一もその刀に恥じない人間になりなさいよ」
「そうか・・・」
そう言うと彦一は自分の刀となったアレナック刀を改めてみる。
「そうだな、そうする事にしよう。
とりあえず目指すは次回の統一剣術大会優勝だな。
そうすればこれを持っていても恥ずかしくはない!
うん、そうしよう!」
彦一の言葉に一同も笑う。
「そうね、それにそうすれば、あんたそれが二本になるじゃない?
それを二本も持っている人間なんてそうそういないよ?」
よしのがそう言って彦一をあおる。
「いやいや、次の大会のアレナック刀は拙者がいただく。
お前は今もらったそれで満足していろ」
佐々木がそう応じると、彦一が応じ返す。
「何を!お前なんぞに優勝をさらわれてたまるか!
それがしこそが次回の優勝者でござる!」
その二人の似非武士のような応酬に一同は笑うのだった。




