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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
ジパング修学旅行 編
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第25話 京都での出来事

 ついにえりかたちは目的地である京都に着いた。

京都の町は草津よりも先に疱瘡が流行っていただけに、すでに収束しつつあったが、それでも大きな町だけに、まだ患者はずいぶんといる様子だった。


「さあ、みんなも今まで、医療の手伝いや、患者の世話で疲れたろう?

草津での逗留が長かったので、予定よりは短いが2・3日は京都に泊まる。

幸いな事に京での疱瘡もほとんど収束している様子だ。

今日、明日位はゆっくりと休んで、その後で各々京都見物をしなさい」

「でも先生・・・」

「西明寺、お前の言いたい事はわかる。

だがこれも島田宿の時と同じ事だ。

我々が何かをしたとて、それで京の人が全て救われる訳ではないんだ。

ましてやここは草津と違って、人の数は何万人といる。

その人たちを全て救おうなどと考えるのは驕りだ。わかるな?」

「でも・・・」


流行は収束に向かっているとはいえ、まだまだ多数の患者がいる事は確かだ。

それを見て見ぬふりをしながら、生徒たちに京の町を楽しめというのも酷だった。


「でももしかもない。お前たちは学生なんだ。

一時期の感情や正義感に囚われて、本分である学業をおろそかにする事はしてはならない。わかったな」

「はい」


不承不承なえりかたちだったが、それでも京都の各地をみて回るうちに、次第に楽しめるようになっていった。

そしてそれぞれが思い思いに土産を買い、家で待つ家族の事を考えていた。



次の日、えりかたちが京都を見物していると、ふと小さな女の子が近寄ってきて、この日はたまたまジパングの制服を着ていた、みゆきのスカートの裾を引っ張る。


「お姉さん?ジパングの人?」

「え?ええ、そうだけど?」

「あのね、お願いがあるの」

「なあに?」

「うちのお母さんが病気なの、

おうちで寝ているんだけど、ジパングの人なら助けられるって聞いたから助けて欲しいの」


その女の子の言葉に三人は顔を見合わせた。

大方この子は草津でのジパングの活躍を聞いたのであろうか?

ジパングの服を着ているえりかたちに頼めば母親を助けてもらえるかもしれないと。

三人は話し合って、とりあえず、その女の子の家へ行って様子をみる事にした。


えりかたち三人はその女の子の家に着くと、そこには母親が弱弱しく横たわっていた。見た感じではかなり熱もありそうだ。

せめて自分たちの持っている解熱剤だけでもあげれば、何とかなるかも知れない。

しかし生徒の勝手な判断で薬を処方したり、日本の人にあげたりするのは厳しく禁じられていた。

えりかが悲しそうに女の子に説明をする。


「ごめんね、悪いけど、御姉ちゃんたち、あなたの御母さんのこと治せないんだ」


せめてここがジパングの近くならば良かったのに・・・とえりかは思った。

ジパングの近くならば「御救い屋敷」というものがあって、そこに行けば、貧しい人たちに食べ物も恵んでいるし、病気の治療も無料でしている。

もしここがジパングの近くならば、えりかはみゆきたちと一緒に、すぐさまこの母子をそこへ連れていっただろう。

しかし今その場所は、はるか彼方だ。

とてもこの病人を連れて行く事はできない。

そう考えているえりかに、女の子が悲しそうにつぶやく。


「だめなの?ジパングの人なのに・・?」

「うん、ごめんね・・・あ、でもこれを御母さんにたべさせてあげて」


そう言ってえりかが出したものは練米板、別名「ジパングおこし」だった。

ジパングに限らず、持ち運びに便利で、味も良いので、「旅の友」とも言われ、旅人たちに好まれている食べ物だ。

えりかは自分のおやつのためにジパングの宿で買った物だったが、これは本来が非常食で、栄養があるために滋養物としても使える。

この一家では食べ物もろくな物を食べていないだろうと考えたえりかが、せめてジパングおこしを食べれば、栄養を少しはつけられるだろうと考えて、それを一袋渡したのだった。


「うん、ありがとう」


少女が例を言うと、えりかたちも立ち上がった。


「じゃあね、お母さんの面倒を見てあげてね」

「うん」


そう言って見送る少女を三人は後にして立ち去った。

しかし、しばらく歩くと、ふとみゆきが足を止める。


「どうしたの?みゆきちゃん?」

「二人ともちょっと先に行っていて、すぐに戻るから」


みゆきはそう言うと、今きた道をダッ!と駆け戻る。


「え?」

「おい、みゆき!」


しばらくえりかとよしのがそこで待っていると、みゆきが、戻ってくる。

その表情は先ほどと違い、晴れ晴れとしていた。


「お待たせ、えりかちゃん、よしのちゃん、さあ行こう」


みゆきの言葉にえりかとよしのも返事をする。


「うん」

「そんじゃ行くか」


えりかとよしのは、みゆきが今あの家で何をしてきたか、見当はついていたが、それを口にする事はなかった。


その夜、食事の時に保健の先生が全員に重要な話があると言って、生徒たちに話を始めた。

生徒たち一同が集まると、先生が話し始める。


「みんな!よく聞いてくれ。

実は昨日うちの生徒がある家に薬をおいてきてしまった。

そこの家に病人が出ていたので、かわいそうに思って薬を一瓶丸ごとあげてしまったのだが、それが逆に仇となった」


そこで一旦言葉を切ると、周囲を見回して再び話を始める。


「諸君も知っている通り、薬という物は使いようによっては毒にもなる。

ところがこの生徒が薬をあげた家ではそういった知識が全くないために、単純にたくさん薬を飲ませればすぐに治って良いだろうと考えて、病人に一気に薬を一瓶飲ませてしまった」


それを聞いてえりかたちは声も出せないほど驚いた。

薬は確かに使用法によっては毒にもなる。

使い道を間違えれば体を治すどころか死んでしまう事だってありうるのだ。

しかも一瓶を一気に飲んでしまった話など初めて聞いた。

知識がないとはこういう事なのかと、そこに集まった生徒たちは一様に驚いていた。


「薬を飲んでから病状が突然悪化して驚いた家族が慌ててここに来て体を診て欲しいと言ってきた。

普段ならばそういった事はジパングとしてはキリがないので、受け付けないのだが、今回は事情が事情なので、私がその家にかけつけた。

しかし残念な事に元々病気で弱っていた事もあって、私が到着した時にはその病人は亡くなってしまっていた。

こういった事もあるので、諸君はくれぐれも自分の判断で日本の人に薬をあげたりしたりしてはいけない。

改めてきつく言っておく!

諸君は善意でしたとしても、それは相手に死を招きかねないのだ。

決して一時の感情に動かされて人助けをしようなどと考えてはいかん!

一同わかったな?」


先生の説明に一同が「はい」と答える中で、えりかは隣にいるみゆきが、ガタガタと震えだしたのに気がついた。


「どうしたの?みゆきちゃん?」


えりかの言葉に泣きそうな顔のみゆきが話し始める。


「どうしよう、えりかちゃん、私、さっき薬を渡してきちゃった」

「薬?あの家に?」


やはりそうだったのかとえりかは思った。

人一倍やさしいみゆきの事だ。

あの子の母親を見ていたたまれなくなってしまったのだろう。

予想はついていたが、このままでは場合によっては最悪の結果になってしまう事もえりかはわかった。

あの時、みゆきを止めていればと悔やまれたが、みゆきの性格を考えて、何をしたかわかっていたのに、あえて黙っていた自分も同罪だと思った。


「うん、だってあんまりかわいそうだったから・・・私、持っていた薬を一瓶丸ごと・・・」


そのみゆきの言葉によしのと共に無言でうなずくと、今にも泣きそうなみゆきを慰めるよ

うにえりかが話す。


「大丈夫だよ、とにかく先生に言って対策を考えよう」


先生に話した結果、ただちに保健の先生と一緒にみゆきが家に行く事になった。

幸いな事にその家ではちゃんとみゆきの言う事を聞いていて、必要以上の薬は飲ませていなかったので大事にはいたらなかったようだ。

保健の先生が改めて薬の説明をして、決して、言われた以上の薬を飲ませない事、周囲には薬をもらった事を吹聴しない事を念を押して説明した。

帰ってきたみゆきは、先生に改めてたっぷりと説教をされて、憔悴はしていたが、相手が特に問題はなかったので安心もしていた。

しかし、えりかとよしのにはポツリと言った。


「自分では良い事をしているつもりでも、場合によっては相手を殺しちゃう場合もあるんだね・・・」

「うん、私も今回の旅行では色々と学んだよ」


みゆきに話しながらえりかも自分が島田宿で経験した事を思い出す。

そして一歩間違えれば、草津やここ京都でも、みゆきと似たような事をしてしまった可能性は高い。

落ち込む二人によしのが声をかける。


「ま、二人とも気持ちはわかるが、明日で京の都もいよいよ最後だ!パーッといこう!」

「そうだね」


そのよしのの言葉にえりかも賛成だった。




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