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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
ジパング修学旅行 編
77/93

第23話 野分

 宮宿に着くと、いよいよ今度は東海道で唯一の海路、いわゆる「七里の渡し」だった。


「宮宿か~いよいよ名古屋だね」

「ここからはしばらく船だから楽だね」


四時間ほど波に揺られて海を渡ると、そこは桑名の宿だった。

桑名は関が原の戦い以降は徳川四天王と言われる本多忠勝の所領となって、桑名城が築かれたので有名だが、その子忠政が姫路藩に転封になって以降、目まぐるしく持ち主も変わり、城も焼け落ちてしまい、今は再建もされていない。

それでも東海道の要所なのは同じなので賑わっている。


しかしえりかたちジパングの修学旅行生たちはあちこちで話し込んでいた。


「おい、どうも明日はここで待機らしいぞ」

「やはり野分のわけか?」

「いよいよ来ましたね」

「ああ、どうも明日はこの辺がかなり荒れるらしい」

「こればっかりはどうしようもないからな」


ジパングの修学旅行は季節がら必ず野分、すなわち台風と出会う。

多い時は旅行の間に5回も出会った例があり、出発日に大きな野分が江戸地方を襲ったので、出発が翌日に延期された例すらある。

少々の雨なら行程を進めるが、さすがに野分では宿で通り過ぎるのを待つしかない。

そんな場合は生徒たちは宿の薪割りを手伝ったり、洗濯物をして室内で乾かしていたり、日記をつけて、雑談をして過ごす。

今回は初めての野分という事もあり、みんな野分の話しとなる。


「まあ、しかし順調な方だよな。

大井川や七里の渡しを過ぎた後でよかったよ」

「ああ、大井川で止められたら洒落にならない場合があるらしいからな」


大井川は野分が来ると、川止めになるので有名で、その間はもちろん川は渡れずに、場合によっては1週間以上も水かさが減らず足止めを食う事もある。

庶民の伊勢参りなどの気ままな旅ならともかく、ある程度日程が決まっている修学旅行では避けたい事だった。

一応、予備の日は見込んであるが、過去には大井川で全ての予備日を使いきってしまった年もあったらしい。


えりかたちも、特にする事がないので、みんなで雑談をして過ごす。

話は自然と野分けの話になっていった。


「でも、ここまで一回も野分に遭わずに来れたんだから、私たちは運が良い方なんじゃないかな?」

「そうですね。

運が悪い時には京に着くまでに3回も出くわした事もあるらしいですからね」

「あ~あ、いつ野分が来るかわかれば旅行の計画も立てやすいのになあ」

「無茶言うなって、相手は自然現象だぜ?」

「あ、でも、そういえば確か福岡藩だったかに、明日の天気をピタリと当てる御天気姫とかいう人がいるそうですね」

「何?それ?」

「それ、私も聞いたことあるよ。

何でもそのお姫様は明日の天気を必ず当てるので、天気の巫女とも言われていて、福岡藩の上屋敷は正門に翌日の天気を掲げてあるので、御天気屋敷って言われているらしいよ」

「へえ?どうやってそんなのわかるんだろうね?」


そんな話を学生同士で話しながら翌日は野分が通り過ぎるのを待っていた。


翌々日は台風一過で晴れだった。

その後、えりかたちは順調に土山、水口、石部と旅を続けていた。

途中、実地研修の一環として、宿場の手伝いで炊事をしたり、薪割り、水汲み、場合によっては人手不足な宿場町で医者の手伝いをするために、患者の看護などもした。

そうして旅を続けながら、いよいよ京都まであと二つの宿場町、草津に近づいていった。


「いよいよ次は草津か~・・・あれ?

草津って、確か温泉で有名なんだよね?」

「そりゃ、上州上野国の草津温泉だ。

確かによく間違えられるが、こっちは彦根の草津で、温泉はない」


彦一の説明にえりかががっかりする。


「な~んだ、別物なのか!

温泉に入れるかと思ったのに!」

「まあ、確かに紛らわしいですよね」


えりかたちが草津に着くと、何やら宿場全体が騒ぎになっている様子だった。

どうやら何か大事が起こっているらしい。




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