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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
ジパング修学旅行 編
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第22話 餞別と医療費

 そんなえりかに彦一は懐をごそごそと漁ると、何かを取り出してえりかの手に渡す。


「ホラ、お前の気持ちを汲んで、餞別にこれをくれてやるよ。お前も出せ」

「何?これ?」


それは一朱銀だった。


「日本じゃ「地獄の沙汰も金次第」って言う言葉があるだろ?

その子を助けてはやれなくても、いくらかでも金をあげれば何かの時に役に立つだろう?

だから俺が一朱くれてやるからお前も一朱だして二人にくれてやれ」


そう言われたえりかは彦一から渡された一朱銀を無言で見つめる。

一朱、二百五十文。

ジパングの金にすれば約625財で、これ1枚でも普段のえりかの1ヵ月分の小遣いよりも多いのだ。

確かにちょっとした餞別としてあげるにはちょうど良いのかも知れない・・・

そうえりかが考えていると彦一の横にいた小太郎も声をかけてくる。


「おう、そういう事なら俺も一朱だすぜ、金は多い方がいいだろ?」


小太郎がそう言い出すと、他の者も賛同する。


「僕も出しましょう」


と雅楽衛門が言えば、他の学生たちもそれに続く。


「それなら俺も出すぜ!」

「俺もだ!」

「私も!」

「俺、小遣い少ないから百財でいいか?」


そう言って、次々にみんながえりかの手に一朱銀や百財銀貨をわたしていく。


「もちろん、私も出すよ、えりかちゃん」

「私もな」


みゆきとよしのがそう言って、それぞれ一朱銀をえりかに渡す。


「ありがと、みんなありがとね、私は二朱・・・ううん、一分出すよ」


そんなえりかの頭をポンと叩いて津吹先生が話しかけてくる。


「だからせいぜい二朱でやめとけ、西明寺、まだ旅は長いんだ。

先生が二朱出してやる。それでお前の分と合わせて一分だ。

それでいいだろう?」

「はい、先生、ありがとうございます」


えりかが涙ぐみながら津吹先生に礼を言うと、不意に話しかけてくる者がいる。


「ふむ、そういう事ならわしも二朱出させてもうらおうかの」


地蔵の吉衛門だった。


「吉衛門先生・・・」

「ま、今回の事はお前さんにも良い経験になったじゃろう?」


その吉衛門が懐から二朱を出して、えりかに渡しながら問いかける。


「はい」


えりかが素直に答える。


「わしはあの娘が完治するまでここにいて二人の面倒を見る。

お前さんは気兼ねする事無く旅を続けるがいい」

「はい、ありがとうございます」

「・・・ところでじゃな」

「はい?」

「言いにくい事だが、まだあの子の治療代をもらっておらんのじゃ。

あの時、治療を頼んだのはお前さんじゃ。

従ってお前さんに治療代を請求するのが筋だとおもうのでな」


これは実は重要な事だった。

ジパングの地蔵は全国を巡り、あらゆる人たちに分け隔てなく治療を行う・・・

それは事実だ、しかし無料ではないのだった。

治療をすれば、必ずいくばくかの代金をもらう事になっている。

昨日、吉衛門にしたように相手が望みもしないのに地蔵が勝手に治療する場合は別だが、それ以外は必ず治療費は取る事になっている。

もちろん、ジパングの圧倒的な資力からすれば、全国を巡っている数少ない地蔵全員の給料と薬代を出す事は造作もない事だった。

しかし実際には地蔵はジパングの公務員扱いで、給料はジパングが支払っていたが、薬などの代金は仕入れ値で購入しており、また売る時の金額も決まっていて、それよりも高くも安くも売る事は禁じられていた。

“ジパングの医者はどんな病気や怪我でもただで治してくれる!”

そんな噂が立ってしまえば、日本やその他の国で医学や医者が育たなくなってしまうからだ。

ある医者に頼めば、いつでも無料で、しかも確実な治療を受ける事が出きるのに、どうしてわざわざ金を出して他の医者にかかる必要があろうか?

また、医療と言うものは無料が当たり前、などという事が世間の常識になっても困るのだ。

そんな事になればジパング以外でまともに医療を行っている者達が、まるで金の亡者と蔑まれかねない。

つまりジパングならばただで治してくれるのに、あの医者は病の者から金をむしりとる・・・と。

そうなれば医学を志す者がいなくなり、ジパング以外の医学の発展は止まってしまう。

それでは困るのだ。

だから治療の際には、必ず治療代をもらう事になっていたが、薬を売る場合と違って、その金額はそれぞれの地蔵に任されていた。

平たく言ってしまえば、地蔵の言い値である。

ジパングの授業でもそれは教えており、えりかも当然その事は知っていたので、慌てて返事をする。


「は、はい、もちろん払います!おいくらですか?」

「そうさな、十文じゃ」

「は?十文?」

「さよう、十文じゃ」


十文と言えば、せいぜい団子2本の値段である。

この御時世、江戸でそば一杯でも十六文する。

つまり十文ではそばの一杯も食べられない。

これでは包帯代や傷薬代にもならないだろう。


「あの~それでは安すぎるんじゃ?」

「いいんじゃ、今回はお前さんの教育のようなものじゃからな」

「はい、ありがとうございます」


そういうと、えりかは素直に感謝して吉衛門に十文を支払った。


結局、みんなから集まった金は三十五朱と1500財になった。

全部で二両以上だ。

確かにこれだけあれば何かの役には立つだろう。

それを自分の手巾に包んだえりかがやえに渡す。


「それじゃこれ、私たちの餞別に・・・ゆきちゃんと二人で分けて使ってね」

「はい、ありがとうございます」


名残は尽きなかったが、津吹先生に促されて宿を出る。


「では行くぞ、西明寺」

「はい、先生」



宿を出ると、いよいよ東海道でも指折りの難所の大井川だった。

大井川の流れは複雑で、それ故に橋が架け難い。

その上、ここは江戸幕府の命により、橋を架ける事はもちろん、渡り舟さえ禁止になっていた。

江戸の西には外様大名が多いために、万が一西から江戸へ攻め込まれた場合に、ここで足止めをするのが目的だった。

したがってここを渡る場合は川越人足かわごしにんそくと言われる人々に肩車をして渡るか、その人足たちが数人で運ぶ輿に乗って渡るしか方法は無かった。

もちろん濡れるのを覚悟するのならば自分一人でも渡れるが、それは「勝手渡り」と言われて禁止されていた。

これは建前は溺死を防ぐためと言われていたが、実際には島田(江戸側)と金谷(京都側)の両川宿場の稼ぎを安定にするためだと言われている。

そして実際に渡るのに慣れている人足でないと、川底の浅い深いがわからずに流されてしまう事もあると言われてもいる。

また、天候が雨などで水かさが増した場合、本来の二尺五寸の水位が二尺増えた場合、すなわち四尺五寸になった場合、直ちに川止めとなり、川を渡れなくなるのだった。

これにより、梅雨や長雨の時などは運悪く何日も川止めになり、旅人の宿代が底をついてしまう事も度々あったという。

幸いな事に今回は天候も良く、川渡りにも何も問題は無かった。


いざ、川越えをする際になって先生たちが生徒たちに注意をうながす。


「いいか~みんな?わかっていると思うが、川越中は暴れるんじゃないぞ!

ここまでも、酒匂川とかで、もう何回か経験しているんだからな!

だけどこの大井川は今までの所より危ないからな!

人足さんたちの迷惑にならないように!

特に女子!キャーキャー言って騒ぐなよ!

男子も人の上に乗っているんだから下手に動くなよ!

荷物は全部背嚢の中に入れるか、しっかりとくくりつけておけ!

川の中に落とした物は拾えないと思え!

何か落としても決して騒ぐなよ!

わかったな!」

「はあ~い」

「わかってまーす!」


先生の注意に生徒たちが返事をする。


川越人足の肩に乗ったえりかがその人足に問いかける。


「ねえ、おじさん?」

「ん?なんだい?嬢ちゃん?」

「おじさんがここで働いているのは奉公で来たの?」

「いや、俺は親が元々ここの人足だったからな。

まあ、そのままここで育って、親と同じに働くようになったっつーとこだな」

「そうなんだ」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「ううん、何でもないの、ただ聞いてみたかっただけ」

「そうか」


無事川を渡ると、人足に礼を言って別れる。


「おじさん、ありがとうね!」

「おお、帰りにまた担いでやるからな」

「うん」


降りた学生たちが目指すは大井川の反対側の宿場、金谷だった。



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