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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
ジパング修学旅行 編
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第14話 えりかとうり坊

 岡部、藤枝と順調に旅が進み、次は島田宿に泊まる予定だった。

島田宿と言えば、箱根と共に東海道最大の難所と言われる大井川が待っている。

箱根馬子唄でも有名な「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」だ。

あと一里も歩けば到着のはずだが、えりかは小用をもよおしてきて我慢が出来なくなってしまっていた。

(このままじゃ宿に着く前に漏らしちゃう・・・)

どうしても我慢できなくなったえりかは、横にいた友人二人に小声で話しかけた。


「ねえ、みゆき、よしの・・」

「どうしたの?えりかちゃん?」

「ちょっと先に行ってて・・・」

「どうしたのさ?」

「いや、その、すぐに追いつくから先に行っててほしいの」

「単独行動は厳禁だよ、えりかちゃん?」

「いや、その・・・わかっているけど・・ね?お願い」


そのえりかの苦しそうな表情を見て、ピンときたよしのが、したり顔な様子で返事をする。


「はは~ん、何だ、ちびりそうなんか?」

「ちょっ!よしの!」

「な~んだ、そういう事か、いいよ、待っててあげるから、行ってきなよ」


やさしくみゆきは言ってくれるが、えりかとしてはそれも心苦しいし、周りにバレバレになってしまう。

特に男子に知られれば、はやし立てられるし、出来ればそれは避けたかった。


「いや、その、それも悪いし・・・」


えりかの気持ちを察したよしのが返事をする。


「あ~わかった、わかった、先に行ってるからゆっくりしてきな」

「だから!大きな声出さないでってば!」


思わず抗議するえりかにこんどは小さな声で答えるよしの。


「わかったから、ほら、じゃあ先に行こう、みゆき」

「うん、じゃあね、ちゃんと追いついてね、えりかちゃん」

「うん、わかった」


二人と別れてから、周囲をキョロキョロと見回すと、誰も自分を見ていないのを見計らって草むらの中に入っていくえりか。

(なるべくわからないところに行かなくちゃ)

街道に近い所ではどこに人目があるかわからないので、つい奥へ奥へと入っていく。

(まったくもう!なんでこんな目にあわなきゃならないのよ!)

そう思いながらも人気がない所まで行くと、周囲に気を配りながら用を足す。


「ふう~」


さっぱりしたえりかが立ち上がって周囲を見回す。

(誰にも見られなかったよね?)

そう考えながら、ふと、横を見ると、近くの草むらで何か見かけない物が動いている。

(え?何これ?)

ギクッとしたえりかが警戒して数歩下がると、その草むらから小さな動物が、のこのこと出てくる。

子犬ほどの大きさでフンフンと鼻を鳴らしている。


「え?これって・・・確かイノシシの子供・・うり坊?」


まさにそれはウリ坊だった。

えりかは図鑑で見た事はあったが、現物を見るのはこれが初めてだった。

そのうり坊はふんふんと鼻をならしながら歩いていると、やがてえりかに気づくと、とことこと近寄ってくる。

えりかに近づくとその足の匂いを嗅ぐようにえりかの周囲を歩き回る。

そのしぐさに思わず、えりかは顔をほころばせる。

(うわ~~~かわいい!)

えりかはうり坊を驚かせないように、そっとしゃがむと、その手を差し出して見せる。

うり坊はその出された手を最初はふんふんと嗅いでいたが、しばらくするとペロペロとなめ始める。


「あはは・・くすぐったいよ、きみぃ~」


えりかはそう語りかけながらうり坊の頭をなでる。


「きみ、かわいいね?どこからきたの?」


思わずニコニコしながらしばらくその頭をなで続けるえりかだったが、ハッと思い出してうり坊に別れを告げる。


「いっけない!早く戻らなきゃ!

せっかく会ったのに残念だけど、さよならね!」


そう言って立ち上がったえりかは自分の目を疑った。

そこには明らかにえりかよりもはるかに大きなイノシシが数メートル先からこちらを睨んでいた。

目線をそのままにしながら自分の足元にいるうり坊に、震える声で問いかけるえりか。


「あの・・・まさかアレ、君のお母さんか・・・お父さん?」


そのえりかの問いにうり坊が答える訳もなく、ふんふんと周辺を嗅ぎまわっている。


「あ、あの私、別にあなたの子供をいじめたり、食べようとしたりした訳じゃないので・・・」


えりかの説明に、そのイノシシはじっとえりかの目を見て止まっている。


「じ、じゃあ・・・その、さよなら・・・」


えりかが手を振って立ち去ろうとした、その瞬間だった。


「プギャ~!」


大声を出したイノシシは突然えりかに向かって走りだしていた。


「きゃ~っ!」


一目散に逃げ出すえりか。

イノシシに追いかけられながら、旅行手引の野生動物にあった事例を思い出す。

(確か、男子がイノシシに追いかけられて大怪我した事件があったっけ)

冗談ではなかった。

こんな所でイノシシに怪我をさせられたらたまったものではない。

(確かイノシシは猪突猛進だからどんどん横に曲がればいいんだよね?)

えりかは何回も左右に曲がって必死に逃げて、どうにかイノシシを振り払った。


やっとの事でイノシシから逃れたえりかだったが、今度はまた別の問題にぶつかってしまっていた。

(しまった・・ここどこ?)

逃げるのに必死で、どの方向に曲がって逃げたか全くわからなくなってしまったのだ。

(道、とりあえず道をみつけないと・・・)

焦ったえりかは闇雲に歩き、道を見つけようとする。

自分がみゆきたちと分かれてからもう三十分以上は経った筈だ。

戻るのにもう三十分かかるとなれば、全部で一時間以上・・・みゆきたちも心配し始めるはずだ。

(たかが厠がないだけでこんな情けない目に会うなんて!)

えりかは心の中で泣きそうになったが、そんな暇はない。

あちこち探し回って、ようやくの事で道を見つけたが、ハタとえりかは考えた。

(どっちに行けばいいの?)

何しろ全く見た事もない道だ。しかも相当な田舎道らしく、見回した所、誰も通っていない。

(とりあえず西だわ、みんな京都に向かっているのだし、西に行けば間違いはないわ)

そう考えたえりかは太陽の位置を見ると方向を決めた。

(こちら側が西ね)

方向を決めたえりかは西へ向かって歩き出す。

(とにかく、どこかのもっと大きな道か街道に出なくては・・・)

そう考えながら歩いていくと前方に小屋と人の集団が見えてくる。

どうやら旅の一行が途中の小屋で一休みしているようだ。

(良かった・・これできっと正しい方向が決められるわ)

場合によってはこの人たちに宿場まで連れて行ってもらえるかもしれない。

そう考えると嬉しくなって、急いで近づくとその集団に声をかけた。



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