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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
ジパング修学旅行 編
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第04話 伝説級の懐剣

 ある事を思い出したえりかが彦一を引き止める。


「・・ああ、ちょっと待って、五十嵐君。

そういえば名品って言えば、私、多分もっと凄い物を持っているわよ」


すでに説明を終えて、行きかけようとする彦一をえりかが止める。


「もっと凄い物?」


その言葉を怪訝そうな顔で聞く彦一に対して、えりかはゴソゴソと懐を探ると、父から譲り受けた懐剣を取り出す。


「ジャ~ン!

五十嵐君ならこれが何だか知っているんじゃないかな?」


黒と銀の模様で造られた鞘と柄は単純ながら荘厳に見える。

差し渡し15cmほどの短刀をしげしげと見て、何か記憶を掘り起こそうとする彦一。


「ん?懐剣か?

確かにそれもずいぶんと造りが良さそうだが・・・

そういえば、その造り、どこかで見た事があるような・・・?」

「へへ~、刀身を見れば、すぐにわかると思うよ」


そう言ったえりかが、その場でスラリと懐剣を抜いてみせると、そこにはキラキラと水晶のように透き通った刀身があった。

陽の光を浴びて燦然と輝くその様は神々しくさえある。

その限りなく透けたガラスのような刀身、そして陽の光がこぼれる様な輝きを見た瞬間、彦一が愕然とした声を出す。


「なっ、お前!

それってまさか・・・ア、アレ、アレ」


パクパクとまるで池の鯉のように声にならない声を出して彦一が呼吸困難になる。

まるで今にも過呼吸で倒れそうなほどだ。


「ああ、やっぱり知っているんだ。

流石だねぇ、そう、これ、アレナック刀って言うんだってね」

「アレナック刀?!」

「本当に?」


そばにいたよしのとみゆきも驚いたように声を上げる。


「あれ?みゆきちゃんとよしのんも知っているんだ。

へぇ~有名なんだね、この刀」


そのえりかの声にようやく息が整ってきた彦一が声を絞り出す。


「はっ!ううっ!おうっ・・・

あ、あ、当たり前だ!

・・・っていうか、お前、何でそんな大それた物を持っているんだ?」


驚きのあまり、息も声もつまらせながら問いただす彦一に、えりかがニコニコと説明する。


「こっちはね、父さんに貰ったの」

「もらったって・・・お前、そんな物、そこら辺で手に入る物じゃないぞ?

どんな大枚叩いても買えない伝説の武器級なんだぞ?

わかってんのか?一体、どうやって・・・」


そこまで驚いたように話していた彦一が、ハッとある事に気づいて真顔になると、もう一度話し始める。


「西明寺、その懐剣、ちょっと見せてもらっていいか?」

「うん、いいよ」


えりかから押し頂くように両手で受け取った懐剣をマジマジと眺める彦一。

その刀身は限りなく透明に近く、それでいて水晶か、ダイヤモンドのようにキラキラと光を跳ね返して輝く。


「あ、気をつけてね、それって薄すぎて目に見えない部分に刃先があるから。

何もないと思った部分で指とか切れちゃうよ?

それも信じられないくらいにあっさりと」


えりかのあり得ないような忠告に、彦一も驚く。


「なに?本当か?それは怖いな」

「うん、だから気をつけて、手を切らないようにね。

特に目に見えない部分にね」

「ああ」


そう返事をすると、彦一が鞘や刀身を改めてマジマジと見る。


「やっぱりだ・・・これは統一剣術大会の・・・」


一人でブツブツと言っている彦一にえりかが問いかける。


「何か知っているの?」


えりかに話しかけられた彦一が跳ね上がるように話し始める。


「ジパングで年に一度行われる武術大会は知っているな?」

「ああ、あの剣術とか、空手とかでジパング一を決める大会ね」

「それの他に五年に一回、江戸で行われる剣術大会は知っているか?」


彦一の質問によしのが答える。


「ああ、確か統一何とか・・っていう大会だろ?」

「全国統一剣術大会だよ」

「そう、それ」


みゆきの訂正にえりかもうなずく。


「ああ、その全国統一剣術大会に優勝すると、賞状と賞金のほかに貰える物がある。

アレナック刀の大小と懐剣だ」

「うん、お父さん、それで貰ったって言ってたよ」


えりかの説明に彦一が再びすっとんきょうな声を上げて驚く。


「なにぃ?ちょっと待て!

この懐剣の鞘には「第五回統一剣術大会優勝記念」と書いてある、いいか?

この第五回優勝者って言うのはな、太刀川剣三郎って人で、当時高校二年生で優勝して、大会優勝最年少記録をうち立てて、いまだに破られてないんだぞ?」

「うん、五十嵐君やっぱり詳しいね~、それ、私のお父さん」


えりかの言葉に今度こそ彦一が絶叫する。


「なんだとぉ~~!」

「だからそれ、お父さんから貰ったの」


同じ説明を繰り返すえりかの言葉に、頭を整理するかのように制止して話す彦一。


「ちょっと待て!・・待て、待て!

お前の苗字は西明寺で太刀川じゃないだろう?」

「ああ、それね、昔お父さんに聞いた事があるんだけど、何でも最年少で優勝したとかで色々とやっかみや妬みで嫌な目に会ったんだって。

それで、母さんと結婚する時に、良い機会だからって、母さんの苗字に変えたらしいよ」

「そ、そうなのか?」

「そう、どうせお父さん三男坊だったし、婿養子になるって訳じゃなかったんだけど、別に苗字を変えるのは気にしなかったみたい」


そのえりかの説明に納得する彦一。


「そうか、しかし俺は太刀川、いや今は西明寺先生か。

あの人は実力で優勝したと思っている。

俺の尊敬する剣士の一人だ。嫉妬や妬みはお門違いもいいとこだ。

ん?・・・ちょっと待て!

という事は、お前の家にはアレナック刀の大小も一揃えあるってことか?」

「多分そうだよ、見た事はないけど・・・」

「お・お・お・・伝説とも言われるアレナック刀が・・・」


感動している彦一の横で、よしのが不思議そうに話す。


「でも、そのアレナック刀って、そんなに凄い刀なんか?」

「うん、言い伝えによれば『その刀身、水晶より透けて周囲に輝き、触れれば鋼さえも紙と化して切れる』と言われ、この世にこの刀で切れない物は、それこそアレナック以上の伝説の剣のような物だけらしいので、他の物は何でも切れてしまうそうだよ」


みゆきの説明にえりかもうなずく。


「うん、父さんもそれは言っていた」

「当たり前だ!いいか?

そもそもアレナック刀というのは、初代徳川将軍の神君家康公や八代吉宗公を始め、ほんの数人にだけジパングから贈られた刀だ。

将軍ですらもらってない人の方が多いくらいなんだ。

これより硬い金属は他の世界にはないし、ジパングでもそれより強い金属は、3種類のみ、すなわち紅きオリハルコンと金色のゴルドハルコン、それに伝説の最強剣として名高い星空剣の材質といわれている空のブルネティアンしかない。

あのジパングの伝説的創始者、天ノ川未来あまのがわ みらいが持っていたといわれる剣だ。

しかしオリハルコン以外は現在実存する物はなく、ゴルドハルコンとブルネティアンは神話想像上の産物とされている。

そしてオリハルコンは現物がジパングから家康公に送られた物と、先ごろかすみ様に代わって藩主になられた五十川鈴華様いそかわ すずかが持っている二振りしか確認されてないので、事実上アレナックの材質の剣が最強の剣と言われている。

その刃は鋼でも豆腐のようにやすやすと切り裂き、しかも決して刃こぼれすらする事がないという・・・その製法はジパングの最高機密の一つで、ジパング以外では作られたという話は聞いた事がない。

そして吉宗公と仲が良かった当時の藩主かすみ様が、吉宗公の意向を受けて江戸で始めたのが全国統一剣術大会だ。

これは五年に一度の完全無差別大会で、出場したい者は、国籍・年齢・性別を問わず参加する事が出来る。

そしてそこで優勝した者にだけ、ジパングから優勝賞品としてアレナック刀の大小と懐剣を与えられる。

これはその一振りだ。

大会はまだ八回しか開催されてないから、これはこの世に八本しかないアレナック懐剣のうちの一本なんだぞ!」


ここまで彦一は一気にまくしたてると、ハー、フーと、荒い息をつく。

長いセリフを一気に話して疲れたらしい。


「うん、そうらしいね」


事も無げに話すえりかに、毒気を抜かれたようにカクンとして、彦一が答える。


「そうらしいねって・・・これがどれだけ貴重な品か、お前!本当にわかってんのか?」

「うん、まあ・・・ね」


彦一から言われて、えりかはこれを父から貰った時の事を思い出していた・・・




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