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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
豊臣秀吉 編
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第14話 ジパングの入国関所

 荒川を渡り、ジパングの正門までたどり着いた籐吉郎は、その圧倒的なまでの街壁に驚いていた。

確かにジパング商人の小山田は「ジパングの守りははなはだ堅固」とは言っていたが、これは堅固などと言う物どころではなかった。

小田原城の城郭を知っていた籐吉郎は、いくらジパングの守りが堅固とは言っても、まさか小田原城ほどではあるまいと思っていた。

しかし、これはどうだ!

高さ百尺以上はあろう石の壁が見渡す限りに広がっており、その周囲はさらに幅広い堀や壁に囲まれている。

このような街を落とすには、どう攻めたら良いのか今の籐吉郎には想像もつかなかった。

しかもこの街の奥の方に見えるあの高い塔のような物はなんだろうか?

どう少なく見積もっても、その建物は高さ三百丈以上で、幅も百丈ほどありそうだった。


色々と驚きながらも何とか門の閉まる前にジパングの表門に到着した籐吉郎だった。

役人らしき人間が急がないと、もうすぐ入国を締め切ると大声で叫んでいるのを聞いて、あわてて入国窓口へ急ぐ。

ぎりぎりで窓口についた籐吉郎に窓口係が話しかける。


「ようこそジパングへ!ジパングへはどういった用件で来ましたか?」


その質問を予期していた籐吉郎は用意しておいた船着場で思いついた話を、改めて練り直して、早速話し始めた。


「おほん・・・

 実はここだけの話だが、わしは某国の密使で殿の極秘の命令で、ここの総督殿に会いに来てのう」


いかにも重要な話ぶった藤吉郎の話に感銘を受けた様子も無く、受付係は次の質問をする。


「ジパングは初めてですか?」

「うむ」

「では、外交ですね。

 初回ですから、手形を発行いたしますので、三百財をいただきます」


その窓口係りの言葉に驚いて藤吉郎がたずねる。


「何?おい、今わしは密使だと言ったであろう」

「はい、承りました」

「それで金を取るというのか?」

「はい、ここで手形を作る場合はどなたにも関わらず、手形代と入国料として三百財をいただきますので」

「密使から金を取るなどと・・・貴様、それで良いと思っておるのか?」

「はい、規則ですから」

「規則だと?良いか?よく聞け、

わしはな、非常に重要な用事で、ここの総督に会いに来たのだ。

ここで会えなければ我が殿に叱られる。

な?情けだと思ってここを通してくれ」


半ば脅迫、半ば泣き落としの策を使う籐吉郎だったが、そのような行為は無意味だった。

関所の係員は懇願する籐吉郎に淡々と答える。


「もちろん御通しします。手形を作っていただければ」

「だからわしは密使で秘かに通りたいと言っておろうが!」

「秘かに通る事と、手形を作らない事は話が別です」

「貴様、わしが使命を達成できず、我が殿に叱責されても良いと言うのか?」

「それは残念ですが、手続きをせずにここを御通しする訳には参りません」

「どうしてもダメだと言うのか?」

「はい」

「良いか?何度でも言うが、これは非常に重要な用件なのじゃ。

もし後で貴様がここを通さなかった事が発覚したら当然問題になるぞ?

そうなったら貴様の責任じゃ!それで良いのだな?」


その籐吉郎の言葉にひるむかと思いきや、その受付係は堂々と答える。


「いいえ、むしろ、ここで手形を作らずに、あなたを通したら私の責任問題になります。

それよりもここであなたが騒いで、当方に捕まれば、あなたの方が問題になるのではないですか?」


この受付女は痛い所を突いてくる。


「では三百財を払えばここを通してくれるのか?」

「それと、その他の手続きが無事に終わり、あなたが五両、もしくは五万財をもっているのが確認できれば、御通しする事ができます」

「むむむ・・・」

「他に用が無いのでしたらどうぞ御帰りください」


窓口係りの言葉には容赦がない。


「むむむ・・・」


どうやらどうやってもこの話ではここを通る事ができないと悟った藤吉郎が話を変える。


「ふむ、実はその件とは別に、わしはジパングの民になりたいのだが・・・」


籐吉郎はジパングの民になってしまえば、その後は出入りし放題と考えて、今度はジパングの民になる事を画策する。

藤吉郎の質問に受付係は淀みなく答える。


「それでしたら、まずはジパングの永住試験に合格する必要があります。

字の読み書きは出来ますか?」


その質問に籐吉郎は得意満面となる。


「うむ、出きる。わしは読み書きだけでなく、算術もできるぞ。

何しろ上は天文に通じ、下は地理民情を悟り、知らぬ事はないほどじゃ!」


ここぞとばかりに得意げに自分の能力を引き散らかす藤吉郎だったが、先ほど同様、受付係は全く感銘を受けた様子はなく、淡々と話す。


「では、まずここを出て、荒川の西側にある入国試験所へ行って試験を受けてください。そちらで帰化試験に合格すれば、ジパング国民になる事ができます」


その係員の言葉に、てっきりこの場で試験を受けて、そのままジパングの中に入れると考えていた藤吉郎は当てが外れて驚く。


「何?では今ここで中に入る事はできぬのか?」

「はい、まずは入国試験所で試験を受けていただかないと・・・」


もはや、この話を打ち切ろうとする係員の言葉に、そうはさせじと、窓口にすがりつくように藤吉郎が話し始める。


「のう?聞いてくれ!

今話した通り、わしは読み書きができる上に、その知識は上は天文を知り、下は地理民情を悟り、およそ知らぬ事はないほどなのじゃ。

そのようなわしが、その試験とやらを受けても、どうせ受かるのじゃ。

ここは一つその試験とやらに受かった事にして、ここを通してくれぬか?」

「そういった事はできません。どうぞお引き取りください」

「どうしてもか?」

「はい」


にべもない受付についに藤吉郎は切れて叫びだす。


「ええい!お主では話にならん!上の者を出せ!上の者を!」

「誰が出ても同じです」

「やかましい!貴様なんぞに話すことはないわ!」


藤吉郎が叫んでいると、一人の男が窓口にやってくる。


「どうかされましたか?」

「おお、おぬしはなんじゃ?」

「私はここの責任者で大和田と申します」

「おお、ここの責任者か?ならばちょうど良い!

とっととわしをジパングに入れよ」

「ジパングに?それには手形を作っていただく必要がございますが?」

「そのような物はわしはいらん!」

「そちらがいらなくとも当方で必要とするのです」

「実はな、こやつめにも言ったが、わしは某所からの密使なのじゃ。

だからここは穏便に入れてくれい」

「穏便に入れる事と、手形を作らない事は別の事です。

 ここでは手形を作らずに通す事は出来ません」


先ほどの受付と同じ事を繰り返す男に藤吉郎はいらだってくる。


「ええい!

だからわしは密使じゃからここを通せと言っておるのがわからんのか?」

「何とおっしゃろうが、手形を作らずにお通しする事は出来ません」





取り付く島もない言葉に、ついに藤吉郎もあきらめて入国受付を去り外に出た。

自分の後ろに屈強な係員がやってきて、時間を過ぎてもごねようとしている藤吉郎を、今にも外につまみだそうとしているのがわかったからだ。


トボトボと入国管理所の正門を出て、さらに濠の橋を渡って、塀の外に出る。

ちょうど時間になったのか、門を閉められて、藤吉郎同様、外に追い出された者たちが数人いた。

その内の何人かは慌てて川上の橋の方へと歩き出したが、残りの数人は藤吉郎と同じように何をするでもなくボーッとしている。

(さて、どうするかのう・・・とりあえず明日はその入国試験所とやらへ行ってみるか)

そんな事を考えてジパングの門の前の道端に座り込んでいると、足元をチョロチョロと水が流れてくる。

おや?と思って藤吉郎は空を見る。

夕方とは言え、空は晴れていて天気も良い、雨が降っている訳でもないのに、なぜ水が流れてきたのか?

そう考えて水が流れてきた方を見て、藤吉郎は驚いた。

何と大量の水がザザザ・・・という音と共に、北側からこちらへ向かって流れてくるのである!

見る見る間に流れてきた水は増えていって、早くもくるぶしまで浸かってきた。

このまま水が増えていけば溺れてしまうと考えた藤吉郎は、急いで堤防の方へと走り出す。周囲にいた数人も慌ててそれに倣う。

やっとの事で堤防に辿り着いた藤吉郎が、キョロキョロと見回すと、階段らしき物を見つけてそれを登る。

堤防の上の方まで続いている階段を登ると、そこは幅2mほどの通路になっていて、藤吉郎はそこに腰をかける。


「やれやれ、全くどうなる事かと思ったわい・・・」


ここまで来れば安心だった。

いくらこの水が増えてもこの堤防の高さを越えるとは思えないし、仮に越えたとしても、その水は外に流れ出すだけで溺れる事はない。

(そういえば先ほど、誰かが時間が来て門を閉めると、門の外が水没して行き場がなくなるというような事を言っておったのう・・・)

他の事を考えるのに忙しくて、その事をうっかり聞き流していた藤吉郎だったが、これには驚いていた。

それにしてもこれは一体どういう事であろうか?と藤吉郎は考えた。

水はどんどん増えていったが、深さ八尺(約2.4m)ほどになると、流石にそれ以上は増えてこない。

それを見て、どうやらここに入れば安全だと考えた藤吉郎はため息をついた。


「やれやれ、しかしこれでは動きようがないな」


そう考えた藤吉郎はあきらめて一晩をここで過ごす事にした。



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